販売車両GSXR750の整備模様を紹介します。
この車両はエンジン自体の調子が最初から
良かったため、車体回りの整備を先に
ある程度行った後でエンジンの整備をしていますが、
今回はエンジン回りの作業を紹介します。
これから古いバイクに乗られる方の
参考になればと思います。
今エンジン外観レストアを含む
フルオーバーホールは170万円からとなっています。
(多忙のため受注中断中)
例えば100万円で車両を仕入れたとして
エンジンフルオーバーホールしただけで
単純に言えば270万円はいただかないと
割に合わないということです。
ところが実際にはエンジンだけ調子が良くても
バイクは調子よく走れず、意味がありません。
キャブ、マフラー、点火系、
車体の整備で、電気回りと足回り
ブレーキ回り、外観を綺麗にすることなど、
全体にバランスよく行う必要があります。
そうなれば販売価格はかなり高額になって、
買える人はごく一部の人のみになってしまいます。
それは当社の好みではないので、
今までの経験を生かして本当に必要な
ところは整備して、全体をバランスよく
できるだけ効率的に作業することによって
価格をできるだけ買いやすいようにしています。
ベース車両の判断からスタートして
もし同じ金額なら圧倒的に濃い内容と
なっていると思います。
エンジンだけ良くてもダメ、
車体だけが良くてもダメ、
見た目だけ綺麗でもダメ、
飾っとくだけのものではないので
まともに走らないのなら意味がないと
考えるからです。
その実際に行った整備模様を
紹介させていただきます。
この車両は整備前の入庫時11300キロ位の
低走行車なのですが(現在は約12000キロ)
この時代の低走行油冷エンジンは
乗っていない期間が長いとヘッドガスケット
部分からオイル漏れが発生しやすいです。
この車両は増し締めでオイルにじみは
止まっていましたが
シリンダーまで分解して整備をします。
したがって今回のエンジン整備の
一番の目的はヘッドガスケット交換になります。
また今回はチューニングではなく
本来の調子で走れることを目的とした
作業としています。
まずはエンジンを降ろします。
車体もエンジンも傷がつかないように
必要な箇所を養生してから。

養生はマスキングテープの上からガムテープを
貼ったところとウエスを巻いたところがあります。
ウエスの下にもマスキングテープ+ガムテープ
貼ってます。
全てウエスにしないのはそうすると
フレームの寸法に対してエンジンの大きさが
ギリギリで降ろせなくなるからですね。
それぐらいギリギリの寸法で造られています。
3mmぐらい大きく作ってくれていると
楽なんですけどね。
実際降ろすときは結構きつかったので
載せる時はウエスは辞めました。
限りなく無駄を削ぎ落した寸法に
スズキのGSXR750に対しての本気を感じます。
マスキングテープの上からガムテープを貼るのは
糊分がフレーム側に残らず剥がしやすいからですね。

エンジンを降ろしてヘッドまで分解した
そのままの状態です。
2番の燃焼温度が少し低いようですね。
燃焼のばらつきはバルブとバルブシートの
密着具合が甘くなっていることが
この車両の場合考えられるので
分解ついでに修正しておきます。
このエンジンは販売価格を高くなりすぎず、
かつ本来の調子で走るようにするために
整備するのでフルオーバーホールを
するわけではありません。
あくまで納車整備ですのでヘッドも
フルオーバーホールは行いませんが
降ろしたついでにこの後燃焼室、バルブ、
バルブスロート付近のカーボンをある程度
落とした後にバルブシートをカットして
当たり幅の調整、すり合わせをしています。
これで本来の調子を発揮するようになりますね。

ヘッドを降ろした後のシリンダーと
ピストンもそのままの状態です。
カーボンのつき方にばらつきはありますが
カーボンの堆積量は多くなく
調子が良いのが解ります。
そしてヘッドの組み立てを行います。

バルブステムシールを交換します。
これだけでもオイル下がりがなくなり
余計なオイルが燃焼室内に入らないように
なりますね。
バルブとバルブガイドは
全く問題ありません。

あらかじめヘッドは分解、洗浄し、
オイルを塗ったバルブスプリングシートを
組みつけています。

ステムシールにオイルを塗っておき
組みつけます。

ステムシールを組付け終わりました。
ご覧のようにヘッド内も状態が良いのが解ります。
続いてバルブ、バルブスプリングなどを組みつけます。

バルブスプリングは色がついている方が上になります。
この後リテーナーとコッターを組みつけます。

バルブ回りを組みつけました。
面の方はご覧のように状態良く
修正面研は必要なし。
燃焼室のカーボンもオーバーホール時のようには
落としてありませんが、写真のように出っ張った
部分まで落としておけば本来の能力を
発揮します。
この辺はあくまでサービス作業なので。
普通の店ではこれぐらいでもオーバーホール
しましたと声高らかに言うでしょう。
ヘッドガスケット交換時にヘッド回りの作業を
何もしないで、ヘッドガスケットのみを交換する
業者さんがいますが(手間がかからないので)
流石にそれは開けただけで調子も本来のものに
戻らないですからもったいないかなと思います。
ただ、あくまで元々の状態が良いから
これぐらいで本来の調子が発揮できると
言っているわけで、
傷んでいるものはフルオーバーホール時のように
手間をかける必要がでてきます。

ヘッドが組み終わってステムエンドたたきまで
終わりました。
ロッカーアームが上に4個下に4個見えますが、
一つのカム山で2つのバルブを開け閉めする
タイプです。

この後、写真のシャフトを抜いて
ロッカーアームを一度外しチェックをしてから
グリスアップしてから組付けています。

ロッカーアーム組付け後。状態良し。

次にクランクケース回りの作業に移ります。
ここが悪くなったものは見たことがありませんが
開けたついでに、ここについているノズルの
オーリングも換えます。左右2か所あります。




清掃後のシリンダーです。

シリンダーも状態良し。

カムチェーンテンショナーも消耗少なく
亀裂などもなく状態良いので再使用。
もちろんこの部品も欠品ですが
確認できていると安心です。
オーバーホールの時には部品を探して
交換しますね。
実際もう一台この車両より距離が進んでいる
GSXR750をご注文いただいていますが、
そちらはピストンなども変えますので
部品入手してあります。
エンジンをチューニングせずに
元々のエンジンの状態が良い時は
再使用可能です。
ヨシムラさんの方で純正部品の再販すると
言っていますが、期待しています。

シリンダーのガスケットです。
純正がでます。

シリンダーガスケットを組付け。

ピストンもカーボンは落としてあります。
ここぐらいまで落とすのも結構大変です。
今回ピストンリングは再使用。
張力は充分に残っており状態が良いのも
ありますが、リングはすでに欠品ですので。

シリンダーを組みつけます。
ピストンリングの張力が状態保たれて
いる場合は、このように2番3番のリングまで
シリンダーに入れた途中の位置
(宙に浮いた状態)で止めることが
できます。
もちろんつっかえ棒的な物はなく。
リングがへたっているとここまで入れると
1番4番のピストンに当たるまでストンと
自然にシリンダーが下がってきます。

シリンダーまで組付けました。
エンジン前側は走ることで汚れているので、
これぐらいに掃除するにもかなり時間がかかります。
掃除ができるのもエンジンを降ろすメリットの
一つですね。

ヘッドガスケットはまだ純正がでます。

ヘッドナット締め付け部に使用する銅ワッシャ。
新品に交換します。こういう部品は欠品になっても
手に入れられると思いますが、これも純正がでます。

ヘッドガスケットを載せたところ。
ノックピンとスタッドボルト部にオーリングも
組みつけてあります。


エンジンの前側、クランクケースとヘッドをつなぐ
リターンパイプです。
油冷ではヘッドにオイルを吹き付ける構造ですが
そのオイルがクランクケースに戻るための
パイプですね。
普通の空冷エンジンにはついていません。
このパイプはエンジン前側についている関係で
汚れまくっているので、掃除には結構時間が
かかります。
エンジン全体丸ごと掃除で1日ぐらいでしょうか。


組付け前にヘッド面側をもう一度脱脂します。
修正面研はしていないのに、
まるで面研したかのようにきれいですね。

先程の銅ワッシャはこの様に使われ、
ヘッドのエンジンオイルがスタッドボルト部から
漏れないようになっています。
ヘッドの締め付けトルクにも関係するので
重要な部品です。

カムチェーンを張るための純正テンショナーです。
写真では解りにくいですが少し変わった構造で、
一旦張った後でも少したるみが出るような
構造になっています。

ヘッドまで組付けました。
前オーナーさんも適切に使っていたようで
状態が良いのがわかります。

上部アイドラーには向きがあります。

バルブクリアランス調整をします。
状態が良いものの証で、シートカットすり合わせ後でも
調整を大きく変えなくてはいけないものは
ありませんでした。
つまりシートカットした量が少なく済んでいると
いうことです。傷んでいると多めにシートカットする
必要があるので。

パッキン類を新品にしてヘッドカバーを組付けます。
これも綺麗ですね。

ボルト類を掃除して、ガスケットも交換して組付けました。


プラグはスタンダードなこちらを使います。

クラッチは事前に乗ってチェックし、
問題ないことが解っているのでボルトを
一旦外して規定トルクで締め付け。
過剰にしないのは750系はキャブとマフラー交換
だとパワーに負けて滑ったりしないのですが、
もし滑った場合にはその時に対処しやすいようにです。
対処とは滑らないように加工したりすることですが
その場合クラッチは多少なりとも重くなる方向なので
出来ればそのままいけるほうが良いので。

スタータークラッチ側です。
GSXR750はオイルの銘柄が普通のものであれば
スタータークラッチが滑ることはほとんどないので、
このボルトがきちんとしまっているかを
確認しておけば大丈夫です。

スタータークラッチのカバーです。
ガスケットを交換してカバーを組付け。
よく割れていますが、この車両は大丈夫。

このボルトはエンジン内部とつながっているので
ガスケットと共締めになります。

この写真は右側のカバー内、
点火系のピックアップ部品です。
各部ボルト類の緩みがないかチェックして、
ローターとピックアップ部すき間に
問題がないかチェックしておきます。
下に見えるのはオイルプレッシャースイッチです。

配線回りもダメ整備士が変にいじっていたり
することがあるのでチェックします。
この車両は全く問題なし。

カバーを取り付け。状態良し。

ノックピンを取り付け。

クラッチカバーを組付けました。

殆ど漏れることはありませんが、
オイルキャップのオーリングも交換します。


エンジンをひっくり返してオイルパンまわりの
チェックと、ガスケットなどを交換します。
これはオイルパンを外してそのまま、
何もしていない状態ですが、程度の悪いものは
この部分が誰が見ても解るほど汚れています。
程度の良いエンジンはこの様に綺麗なもので、
汚れが溜まるエンジン下部の中身を見て
状態が良いのであれば、
そこからオイルを吸い上げてエンジン全体に
オイルが回るわけですから、
全体も状態が自然に良くなると言えます。

金色に見えるのはオイルの吸い口の
ストレーナーです。

これはオイルパン内部の写真。
かなりきれいですね。マメにオイル交換され
運転の仕方も適切だった証拠です。

ミッションです。

オイルポンプ周辺です。すべてきれいです。


オイル通路のストレーナー付近オーリングを交換。

銅ガスケットを組付け。

ガスケットを交換して清掃したオイルパンを
組付けました。
オイルパンも日頃は掃除できないので
整備時に掃除しておきます。
エンジンを車体に載せてしまえば
全部見えなくなりますが。

オイルパン回りの確認と整備が終わったので
エンジンの上下を元に戻して作業します。
ジェネレーターとセルモーターを外します。
セルのオーリングを交換するのですが
それらの部品下部は汚れが溜まっているので
それも掃除するためです。


先程のオーリングを組みつけました。
セルのギヤ摩耗も少ないです。

フロントスプロケット周辺です。
さすがに色剥げが見られます。
湿気がこもりやすいからですね。
チェーンオイルなどの汚れを清掃した後の
写真です。
ケース合わせ目のシールは交換しませんが
オーリングを交換します。

フロントスプロケット内の
この細いオーリングを交換します。

このオーリングはシャフト軸から伝わってくる
オイルが外に出てこないようにするための
部品です。

この様に取り付けられます。


ニュートラルスイッチが取り付けられる部分の
オーリングです。交換しました。

ニュートラルスイッチを取り付けました。

ジェネレーターと、セルモーターを
掃除して取り付けました。
エンジン完成です。

エンジンを載せます。
降ろすときはウエスを巻いていましたが、
その厚みで降ろしにくかったため
ウエスは辞め、ガムテープを重ね貼り
することにしました。

エンジン回りのボルト類です。
全部ではないですが、ある程度再メッキに
出してあります。

エンジンを載せました。本日はここまで。
後日、車体整備編を紹介します。

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