旧車バイクの望むこと(1)エンジンシリンダー編

旧車バイクの望むこと

今回から旧車バイクの望むこと本編になります。よろしくお願いします。初回はシリンダー、シリンダーライナーです。古いバイクを飾り物としてではなく、乗って楽しむ、しかも長くとなれば、エンジンの徹底した整備が欠かせません。
もし、空冷エンジンの古いバイクを買ったなら、乗り出す前に整備してしまうのが一番良いと思います。やや極端と感じられる方もいるかもしれませんが、今までの経験上それが一番費用が安く、乗ってからもトラブルがなく良く走り、楽しい思いができると確信があるからです。

私は以前にも書きましたが、70年代~80年代の旧車バイク空冷エンジンの、再オーバーホールのサイクルは一度オーバーホールしてから約20年ぐらいが良いと考えています。

これは一般的な使用方法、つまりツーリングやたまに空いた道があれば飛ばしてみる、時々通勤に使ってみるなどですね。もちろんもっと長く使うことも可能なのですが、ビトーR&Dでメカニックとして働いていた時からタサキチューニングを立ち上げて今まで25年くらい、途切れなく数多く運転の仕方が違う空冷旧車バイクのエンジンを実際に分解、オーバーホールしてきた経験から、ここ数年、これぐらいが大きな目安と言ってよいのではないかと思うようになりました。

この20年のサイクルには、サーキット走行やひたすら峠道を行ったり来たり、速さやタイムを求めた高負荷走行は含まれていません。このような使い方の場合はもっと短いサイクルでメンテナンスすべきなので通常とは分けて考えるべきです。

それでも20年といえば決して短い期間ではありませんね。しかもその20年間もただダラダラと走れるというだけのエンジンのトルク、出力が大幅に下がった状態ではなく、体感的にはオーバーホール直後からそれほどどちらも低下していない状態で走れている、そこが理想ですし、可能だと思います。人間で言えば20代ではないけど30~35歳くらいの動ける体を長く維持できているという感じでしょうか。

そのためには必要な作業は一つ一つ全て行わなければいけないのですが、その中でもピストン同様重要になってくるのがシリンダー、シリンダーライナー回りです。

この部分は整備を仕事にしている人でも意外に軽く考えている方が多い(ライナーは回りの重要性を知らないと思われる)のが現実で、オーバーホールと言いつつもただの分解組み立てに終わってしまってお金だけ取られ、1年も経っていないのにエンジンに力がなくなった、白煙をすぐに吐くようになった、などがたとえ良いピストンを使っていても起きてしまうことがあるわけです。

下記で説明していきますが、よくある旧車の整備メニューでは、カワサキZ1のようなライナーがユルユルになりやすい車種でもそこの部分はそのままという事が多いでしょう。ピストンリングだけ換えても物事は解決せず、本質はそこではないわけです。

まずは部品の説明です。NO1の写真はカワサキZ1の純正シリンダーで、エンジンを分解して掃除のみ行ったものです。アルミのシリンダーに鉄のシリンダーライナーが組み込まれています。このライナーの筒の中にピストンが入り上下に動いているわけです。

次の写真NO2はシリンダーからシリンダライナーを抜いた写真です。これはカワサキZ系であればシリンダーを軽く温めるだけで簡単に抜くことができます。アルミと鉄が同じ温度であればアルミの方がより膨張するからです。日光に当たっている状態で素手で持てるほどの温度でも抜けてしまうものもありますが、本来シリンダーライナーは、軽く温める程度で簡単に抜けてはいけないのです。当然その状態で走っても本来の調子とは程遠いものになります。


NO5、NO6の写真はシリンダーライナー(当社のオーバーホールで使っているビトーR&D製の新品)です。ツバがある方が上になり、これを4気筒エンジンであれば4本使います。カワサキZ系をはじめ、ラインナップにある車種は、とても良い品質のものが1本あたり数千円で売られています。これは整備する側から言えばとてもありがたいことです。ライナーは当然重要な部品なので何でもよいというわけにはいかず、信頼できるものを使うほうが良いです。

このようにライナーが何々用として一般に売られている車種は良いのですが、売られていない車種でライナーが手に入らないものは他車種のライナーを加工して使うか、もしくはライナーを一品物で製作する必要がでてきます。他車種のものを加工して使う場合はそれほどでもないことが多いですが、一品物で製作となるとかなり高い金額となってしまうことがあります。
どちらにしてもライナーが販売されていない車種は余計な費用がかかることになります。

古いバイクのエンジンオーバーホールや重整備で重要なのがこのシリンダーライナーを交換するかしないか、また交換しないと考えていてもその判断は適切かどうかです。また純正のものがそのまま使えると思ってボーリングしていると、その最中にライナーが抜けてきてしまい使えないという事もあります。

このライナーの中にピストンが入り、上下に動いているわけですが、ピストンとシリンダーライナーの間にはすき間(クリアランス)があります。これは使用するピストンにより違うのですが、仮に新品で0.07mmから0.08mmが指定で、使用限度が0.12mmとしましょう。

実際に整備をしようとエンジンを分解して測定したらピストンとシリンダーライナーのクリアランスが0.10mmだった。だから再使用可能?と簡単に結論をだしてはいけません。

ライナーは分解して掃除した状態、NO1の写真のように常温そのままでは抜けてこないことが多いのですが、古いこともありシリンダーやゴムのオーリングなどに引っ付いているだけのことが良くあります。こういう場合は少し力を入れたり、軽く温めると抜けてきます。

先ほど書いたように少し温めるとすぐに抜けてくるようなライナーの状態では、実際にエンジンが動いている時、特に空冷エンジンではシリンダー回り、特に上部が熱くなっているわけで、アルミのシリンダーが、鉄のシリンダーライナーよりも膨張し大きくなります。となれば外から見ていても解りませんが、本来できれば圧入状態でぴったりとそれぞれが引っ付いていてほしいのに、シリンダーとライナーの間にすき間ができていてもおかしくないわけです。

そうなれば常温ではピストンとシリンダーライナーのクリアランスが使用できる範囲内であっても、実際にエンジンが動いて走っている状態ではシリンダーとライナーの間にすき間ができていてもおかしくないわけで、ピストンとライナーのクリアランスを適切に保ちたいのに、回りの部品が緩い状態なのですから、走行中に良いクリアランスに保つことは難しいでしょう。

同じ空冷バイクで、同じような年代のものでも、車種、メーカーによりライナーの緩くなる度合いには違いがあると思います。

カワサキZ系、ローソンなどのJ系のように緩くなりやすい車種もあれば、ホンダのCB系、スズキカタナなどのバイクはカワサキZ系ほどはライナーが緩くなりにくい印象です。
ただし、エンジンのオーバーホール作業の絶対数がカワサキのバイクに比べ、スズキやホンダなどの方が少ないと思われるので、(同じ数で比べることができない)私と回りの関係者の意見で絶対とは言い切れませんが、参考まで。

ライナーがシリンダーに対しそれほど緩くなっていないのであれば、例えばホンダCB-F系、CBX1000、スズキカタナあるいは油冷エンジンでも、ライナー打ち換えをしなくてよいピストンサイズは(純正シリンダーライナーをボーリングだけで使用できるもの)そのままピストンサイズに合わせるボーリングのみでエンジンオーバーホールをしても良いわけです。シリンダー回りのみを考えればいくらか費用は抑えられます。

ただし、そうなってくると、エンジンオーバーホール前のエンジンの状態が大切になってきます。
あまりに状態が悪かったり、過酷な使われ方としていると、どうしてもそういう車種でもライナーが緩くなってきます。
そうなるとエンジン分解前はライナー交換をしない予定で予算を組んでいた時、予算が足りなくなってきますし、ライナーが売られていない車種の場合で、最悪はライナーを予算内に作ることができずエンジンオーバーホールが頓挫してしまうことも考えられるわけです。

その車種に慣れている専門店であれば、そういう場合でもいろいろ手を尽くしてくれて何とかなると思いますが、どちらにしてもライナー打ち換えをしない前提の車種は、長く乗るつもりであれば、特に程度にこだわって良いものを選んで購入するほうが無難です。例を挙げればCBX1000など。

話が前後しましたが、カワサキZ系などはできるだけライナー打ち換えボーリングをする前提で考えておく方が良いです。何度も書きましたが、分解時、ライナーが緩くなっているものがほとんどだからです。
当社で実際の過去20年の販売例でも、ライナー打ち換え(交換)をしなかったのは純正ピストンすら交換しなくて済むほどの状態が良いものなど、おそらく2、3台程度です。
その数台は当社で良いものが見つかった時に仕入れたものですから、たまたまそうできただけで、ほどんどのものはライナー打ち換えボーリングをすべき。そうすれば10年、20年と大きなパワーダウンすることなく長く好調でいられます。これが結論です。ただし良いピストンを使う前提で。

今回の最後に費用の話で、ざっと空冷4気筒モデルで良い鍛造ピストンとシリンダーのボーリングのみの場合で20万円くらい。
同じく4気筒モデルで品質の良いライナーが一般に売られている車種でライナー打ち換えボーリング、同じく品質の良い鍛造ピストンを使う場合はざっくりと30万円くらいです。

安心と耐久性を考えるなら、交換できる車種はこれぐらいの金額の差なら、交換したほうが良いと思いませんか。ですがそこまで考える店は少ないですね。
水冷車、例えばGPZ900Rなどはボーリングオンリーでいけるピストンサイズならライナーは打ち換えなくても大丈夫です。Z系のようには緩くなったりはしないので。

シリンダー、シリンダーライナー編は他にも知っておいて欲しい情報がありますので次回に続きます。

タサキチューニングで販売しているZ1です。
約60枚の写真を紹介しています。
良ければ見てください。大変良い車両です。
http://tasaki-tuning.com/info/index.html

以下は以前も書いている人材募集ですので、
前にも読んだと思われる方はスキップしてください。
タサキチューニングで一緒に働いてくれる
方を募集します。
好きなことを仕事にするという事は
口では簡単に言えるものの、
実際に行うことは、いろいろな事情でなかなか
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私の過去のブログ、フェィスブックのを
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