どのようなバイクにするのか

ノーマルの車体から手を加えていく場合、
きっちり細かくというわけではありませんが、
どのような乗り方、使い方に向いた車両を作るのか
大きな方向性は決めておく必要性があります。
行き先を決めず走り出しても目的地がなければ、
当然どこにもたどり着きません。
どこにたどり着きたいかを旧車バイクのユーザーさんは、
最初から具体的にイメージを持っている方は少ないと思いますが、
峠道か、サーキットか、ツーリングに使うかなど、
自分のしたいことが大まかに解るだけでも全然違います。
その中で、お店選びをします、サーキットを走りたいのなら
それが得意な優秀なレース中心の店、
チョイ乗りもして、ツーリング、たまに峠道も走る、
ということであれば当社のような店ということです。
過去に何度も書いていますが、
当社のバイクはサーキットや峠道だけを何度も行ったり来たり、
という人向けには作っていません。
表現しにくいのですが強いて言うなら、当社の旧車バイクたちは
「ツーリングで楽しく走りたい方向け」でしょうか。
もちろんサーキットなどが走れないわけではなく、たまたまいい峠道があって、
何度か往復して走るとかサーキットの走行会に参加するとかはあると思いますが、
そこを目的にはしていません。
それには私なりの考えがあります。
私が免許を取って最初に乗り初めたバイクが、
2サイクルの250ccモデルでしたので、
エンジン自体も軽く、メリハリをつけた乗り方が適していました。
そうでないと曲がらない感じでした。
ところがこれはいわゆる腕が必要なバイクで、私の腕では追いつかず、
つねに気合も入れて頑張って乗らないと、という感じです。
峠道ばかり走ってました。
その時はっきり解ったのは、私には速く走る才能がないということ、
逆にここをこうすればバイクが良く乗りやすくなり、
楽しく乗れるようになるのではないかという部分を、
回りの人より多く感じたと思います。
それから月日が経って、フレームからエンジン足回りまで手を加えるほどの
チューニングバイクを製作する側になり、逆に自分よりはるかに運転が上手く、
経験豊富なテストライダーや、雑誌編集者の方に乗ってもらうことが増えました。
先ほど書いたように最初が2サイクル乗りで、しかも峠道好きの私が作ったバイクは、
4サイクルでおおきな車体、おおきなエンジンを積んだバイクにもその乗り方が
反映されていきます。
そうなるとどうなっていったのかといえば、
より剛性の高いモノを好むようになります。
Z系のフロントフォークで言えばノーマル36mm径から、
次にもう一回り剛性の高い38mm、そして最後は41mmと
だんだん希望するものがより強いものになっていきます。
当然ブレーキもよりガツンと効くものを好むようになります。
スイングアームもより強く、タイヤはサーキットも走れるようなハイグリップで、
スプリングレートも一般向けより、より高いものダンピングも
それに合わせたものになっていきます。
車体はクイックな反応で、
エンジンも、よりレスポンスが鋭い方、
高回転高出力に向かっていきました。
自分でエンジンから、フレームまでバイクが触れるのですから、
どんどんエスカレートします。
そういう中でいろんな形で先ほど書いた、
自分より運転の上手いライダーに、私の製作したバイクに
乗ってもらうことでいろんな経験をします。
これが勉強になりました。
サラリーマンの時より、直接ライダーの方と話す機会が
増えたのです。雑談の中に本音があります。
その中でZ系のような設計が古く、鉄フレームで、エンジンも重く、
というような旧車バイクで、なるべく高荷重で乗る前提でチューニングしたものは、
ほんのちょっとしたことで本来の目的を達成できなくなります。
乗る人の運転の仕方で走り具合がおおきく変わってしまうのです。
ところが多少条件が合わず乗りにくくても運転のプロの方ですから、
速く走ってしまいます。
試乗後にライダーの方と話していると、速く走ることは可能だけれども
乗って楽しくない、あるいは乗っていて転倒などの不安感があり、
攻めきれないということが解って来ました。
まして他人のバイクですから余計にそうなります。
「今回試乗した道は知っている道だから大丈夫だけど、
特に曲がり具合が解らない知らない道だったら難しいかも」
と感想をいただいたことがあります。
時に2台同時に試乗してもらうこともあり、一台は上記のメリハリ運転向け、
もう一台はいま当社で販売しているような方向性、
「ツーリングで楽しく走りたい方向け」
のものを持って行きました。
するとメリハリ運転向けはダメで、「ツーリングで楽しく走りたい方向け」は
楽しくて、コケる気がしないと高評価。しかもペースもツーリング向けの方が
むしろペースが速いのです。
この時に迷っているものが全てなくなり、この
「ツーリングで楽しく走りたい方向け」のものをつくろうと決めました。
旧車バイクで手を加える場合、どの状況でも良いバイクというのは
難しいです。もちろん新しいバイクでも難しいと思います。
特に旧車バイクは、あちらを立てればこちらが立たずとなりやすいのです。
私なりの下手っぴ腕の高荷重設定バイクは、特定の条件ではよく走っても、
場所が変わったり、もちろん乗り手も変わると、その良い部分が減ってしまい、
悪い部分ばかり目につくようになります。
先ほどのメリハリ運転向けのバイクの問題は試乗した場所の
標高が高く、エンジンの反応がかなりダルになってしまい、
メリハリある車体の動きにならなかったのがすべてをダメにしてしまったのです。
ところがもう一台のツーリング向けはエンジンのダルになる度合いも
少ないですし、車体側もそれでも楽しく走れるように作っていたので
問題なかった。
運転の上手い、特にプロのテストライダーのような人でなくても、
走るために生まれてきたような方は、その悪い部分もフォローして
上手く速く走ってくれます。
でも私の製作するバイクは速く走ることが一番の目的ではありません。
ましてや、普通の方が使う場合、その日の体調、気候、時に悩み事もあったりして
走る場所も大きく変わる状況で、そんな実力の発揮できないようなバイクを作っても
仕方がないと解ったのです。
もちろんノーマルに比べ、チューニングする度合いが進むにつれ
より速く走れるようになります。
ですが速く走れても乗りにくいものを作って、
実力が発揮できなくては意味がありません。
車体、エンジンともに一箇所ではなく全体を考えバイクを製作する。
こうなれば、ぱっと見た感じはどうしても似たようなものにはなっていくのですが、
ほんの少しのことでおおきく乗り味は変わります。
最近のことではタイヤは同じでも、マグホイールのフロントのリムサイズが
少し細いだけで旋回性が異なります。
このさじ加減を考えることこそ私の仕事だと考えます。
このバランスがすごくダメな旧車バイクが多く見受けられます。
私も自分自身の経験から多く学びました。
どうか皆さんは私のような遠回りはしなくて良いように。
もちろんその前に、基本の整備が大切なのですが。

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