CBX1000のレストアの仕事の依頼を受けました。
以前写真を1枚紹介した車両とは別のバイクです。
CBX1000は
空冷6気筒エンジンを積んでおり、
今後は作られることはないであろう
貴重なバイクです。
私はホンダのバイクの中では
CB750FとこのCBX1000が一番好きな
バイクです。
カワサキ車にはない軽快感が好きなのです。
今回依頼を受けたCBXは
カワサキの水冷6気筒エンジンを積んだ
Z1300と全く違い、乗ってみると
この大きいエンジンを積んでいるのが
嘘のように普通の4気筒モデルの様な
感じで乗れます。
つまり乗っていても、乗らずにとり回しを
している時も重さは普通の4気筒モデル
ぐらいに感じます。
そのエンジンの吹けあがりは
他のエンジンでは味わえないもので
やや小さめのピストンが吹けあがっていく
粒が細かい感覚でありながら、
1000ccの排気量で前に進んで
いく気持ちの良い加速です。
今回お預かりした車両にはFCR33mmが
装着されています。
マフラーも交換されていますが、
このマフラーは今一つです。
調べていませんが、結構値段は
するのではないかと思います。
マフラーは今回新たに当社で製作し、
本来の気持ちよさを味わえるものにします。
頭が痛い。
ついているマフラーは製作の技術はとても
精度があり、溶接も、寸法の精度も
素晴らしいものです。
この部分は当社よりはるかにすばらしい。
しかし、音質は悪く、乗ってもいまひとつ。
エンジンの良さが減ってしまっています。
実はこういう商品は世の中に
たくさん販売されています。
このような商品を作ってしまう
確率が高くなるのは、
自社内で作っていない場合です。
つまりマフラーを専門で作る会社に製作を
丸投げ、自社の看板をつけて販売する。
悪いことではありません。
物が良ければいいだけのことです。
当社もブレーキなど何でも
そのようなものがあります。
製作を依頼する際に
ある程度希望は依頼する店が出すのは当然です。
この車種のこういう形で、いうふうに。
形の上ではその車種専用ですから、
つくようにはなっています。
自社でマフラーを作らない場合は
まずこのように走り、このような音で
あってほしいというような、具体的なものが
形になりにくい。
焦点がぼやけるとでもいいましょうか。
実際に自分で作ってみると
良く解るのですが、マフラーは
ちょっとした寸法や作りで結構乗った時の
走りも、音も結構変わります。
丸投げで作ったり、たとえ何度かやりとりを
して商品にするにしても自社内で作るほどには
ノウハウが溜まりませんし、
何度か作り直すにしても、その都度コストが
かかりますから、自社で作るほど思うようには
できません。
依頼した店側も作るたびに変更点や改良点を
発見したにしても、その都度すべて変更は
できないでしょう。
そして今ひとつの商品が販売され続けます。
マフラーはだいたい見た目と金額で買いますから。
フロントブレーキなんかも
見た目ほど効かなかったり、
扱いにくいものも多くあります。
マフラーを実際につくっている会社は
常に大量にマフラーを作っていますから、
精度は高く、溶接の技術も素晴らしい。
つまり依頼されたものをきちんと納品しています。
マフラー製作会社は言われたものを作る。
乗って良いか、音が良いか、
なんてのは依頼する側の能力が大きく影響します。
つまり依頼する側がマフラーのことを
詳しく知っていないと、具体的にこうしてと
注文しなければまともに楽しめる商品に
はならない。
オーナーさんからバッフルを取り付けている
ということだけ聞いていました。
なぜ取り付けているのか理由は聞いて
いなかったため、
音が大きいのかなと思っておりました。
まずバッフルがついた状態で乗り、
これが大きく排気抵抗になっており、
高回転で吹けが重く、上が回りませんでした。
その後バッフルを外し、乗ってみました。
高回転域はそれなりに回るようになりました。
ですがそれよりも問題があったのは
エンジン始動直後から、3000回転ぐらいまでの
ひどいこもり音です。
モーモー言っており、大変不快です。
そしてオーナーさんがバッフルを取り付けている
理由が解りました。
このこもり音が嫌だったんだなと。
後で増井がオーナーさんと話した時に
確認できたのですが
やはりこのこもり音が嫌でバッフルを
装着したとの事でした。
なぜこのようなことが起きたのか推測すると、
この3000回転ぐらいまでのこもり音が
不快だと、売っている側が思っていない。
あるいは知っていても、すでに作ったものだから
変更が簡単にできない。
というところでしょうか。
凝った造りだから、高いからといって
良いマフラーというわけでもなく、
意外にお金のかかっていないものや、
古い物のてきとーに作った方が乗ってみて
良かったりすることもあるのがマフラーの
難しいところです。
古いバイクでもノーマルの方が
いいこともあります。
自分のマフラーを売りたいから
こういうことを書いているのかと言われるかも
しれませんが、
はっきり書いておきますが、
なるべく自社ではマフラーは作りたくありません。
普段マフラーを作ることを中心に
会社ができていないので、効率が悪く
製作にとても時間がかかるので、
金額と合わないのです。
それでも作るのは
やっぱりエンジンだけ良かったり、
キャブが良かったり、車体が良くても、
マフラーが悪いと面白くないからです。
音も(でかければいいとは思わない)
実際の走りも古いバイクを楽しむには
とても重要だと思います。
話は変わって
最後に一つ紹介です。
カワサキZ900のヘッドのIN側ポートです。
販売車両に載せるエンジンのオーバーホール
作業中の写真です。
古いバイクは純正でもロットにより
仕上がりに大きくバラつきがあり、
この写真の様にかなりデコボコしている物が
あります。
このデコボコ具合が少ないものもあれば
ひどいものもあります。
このヘッドでいえばEX側は全て綺麗な方で
IN側はこの写真の部分と
もう一か所ひどいデコボコがあり、
修正しました。
綺麗な写真の方が修正後です。
かなり時間がかかります。
このあと全てのガイドは交換するので
ガイドの外側が減っていますが
それは気にしないでください。
純正の状態でそれだけバラつきが
あります。
オーバーホール時はそのデコボコを修正する
唯一のチャンスです。
燃焼室やポートをブラストの様なもので
カーボン落としをしたり、
(カーボンは落ちるがでこぼこはそのまま残る)
簡単にカーボンをさらっと落とした程度で
オーバーホールというのはもったいないと
思います。
オーバーホールとは設計した側の考える
本来の調子を取り戻すことで、
このような製品のばらつきを
そのままにすることは望んでいないと思います。
ただし素人の方は削ってはいけない箇所を
削ったりしてしまうので
さらっとする程度にとどめましょう。
私も作業する時はかなり気をつけ、
考え、時間をかけて作業をしていますので。
こういうことの積み重ねのみが、
本来の調子を取り戻す唯一の手段です。
このような写真をたくさん撮って
納車時にオーナーさんに渡せば
きっと2馬力ぐらいは心がアップすると
思っています。
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