鍛造ピストンの話など

 

写真は高品質なアルミ鍛造ピストンです。
ピストンは極めて重要な部品ですが
その大切さを知らない人は
プロの人にも多いようです。

私とても人のことは言えず、
ビトーR&Dに入り、今の仕事に
携わるまでは、そこの重要性を
知らなかった一人ですけれど。

つまり、普通の車のディーラーの整備士
だったときには知らなかったわけです。

良いピストンとそうでないものの、
乗ってのその一番の違いは何といっても
アクセルを開けたときのツキ、
反応、加速感です。
回転感も密度がつまっていると
いいますか。とにかく運転して
飛ばせなくても楽しい。

大きくアクセルを開ければ
当然違いがありますが、
そうでなく、少し開けたときから
違います。
音も歯切れよくなり、調子の良さが
伝わってきます。
これは誰が乗っても違いがはっきり
解ります。

本当にバイクが好きな方なら
これを知らずに

一生を過ごすのはもったいないと
思えるほどです。
またピストンサイズなども同車種で
選べることも多く、選択できるのも良い。
知らないのは本当にもったいない。

きちんと整備されていないバイクを
何台も所有されるのあれば
一台くらいまともなピストンを組んだ
エンジンはどうでしょう。
大きなお世話ではありますが。

鋳造の純正ピストンとは
排気量、圧縮比、ピストンの形状
もちろんリングも、それにセットされる
ガスケットも変わりますから、
同じエンジンでも燃焼室内の
燃焼状態が全く変わります。

適切な良いピストンを使えば
扱いにくさなどは全くなく
むしろ乗り易くなります。

またGPZ900Rなどは水温も
純正より下がり、元々ニンジャは水温が
高めですから良い方向に変わります。
それでいて、出力もトルクもあがり、
回転のフィーリングも良くなります。
なおかつ耐久性も上がる。
悪くなるところが一つもないわけです。

距離を走ってもへたりが少なく
出力の低下がはっきりと少ない。

これはGPZ900Rの圧縮比が元々高く、
強度が求められるのに純正ピストンが
普通の品質のもので、へたり易いのも
関係があります。
ですのでGPZ900Rの中古車を
エンジンのオーバーホールをしないで
乗るのなら最初の見極めは特に重要です。

今忙しくて販売するのを辞めている
ZRX1200Rなどは圧縮比がそれに比べれば
元々低めで、ヘッド回りも設計がまるで
違うので、同じような使用条件でも
へたりは少なくなります。

ピストンはエンジン内で高温と
高圧に
さらされながら、
エンジン内で上下に動いて
往復運動を繰り返す部品のため
強度が高く、さらに他の部品との
バランスもありますが
ある程度軽いほうがいいのは
いうまでもありません。

当社の取り扱い車種は
冷却方式のほとんどが空冷式、
水冷式でも空冷から水冷に変わり
始めたころのものが多く、
水冷であっても熱的に
余裕があまりない時代の
バイクが多いです。

それらのバイクは、
純正で鋳造のピストンが使われていますが、
特に空冷エンジンは熱の上下が激しく、
使用条件は厳しくなります。
そこでエンジンオーバーホール時に
質の良い鍛造ピストンに変更すれば
大きく走りの質が向上、高い耐久性の
両方を手にできるというわけです。

良い鍛造ピストンは他の物より
値段が高いのは事実ですが、
高いといってもびっくりするほどは
高くはありません。
意外に品質の低い物が
高いとも言えます。

レースなどをしないから
そこまで良い物は必要ないと
思われている方もいるかもしれませんし、
バイク屋さんでも良い鍛造ピストンを使う
そのメリットを
知らないところも
多いようです。

個人の方が知らないのは
きっかけや出会いがないと、
なかなか難しいかもしれませんが、
これほど情報が氾濫している今の
世の中で、それを仕事に
しているプロでも知らない、
そういう人が多くいるのは
とても残念なことです。

その良さを知らない理由として
ピストンの能力を発揮させること自体が
出来ていない自称プロも
とても多く、
(話を聞けばあいまいなことしか
言わないのですぐに解る)
その違いを実際に経験して

いない印象が強くあります。
また本や、ネットで知っていても
実体験がないと良い鍛造ピストンを
使う理由付けが弱くなります。

高品質な鍛造ピストンの能力を
発揮させるには、その他の部分も
きちんとしなくてはいけません。
シリンダーボーリングもきちんとできて
いないといけませんし、
良いシリンダーライナーを使い
ライナーの打ち換えもきちんと
できていないといけません。

バルブ回り、ガイド交換や
シートカットすり合わせ、
当たり前ですがきちんとした
組付けも大切です。

そして吸気(キャブ)排気(マフラー)
点火系もキチンとしていなければ
なりません。

つまりそれらがすべてまともに
あればこそ、はっきりと違いが
体験できる。

ピストンだけ良くても他のところが
ダメだと能力が発揮できないので、
他のピストンとの違いが明確に解らず、
今の世の中せっかく良い鍛造ピストンが
それほど高い金額でもなく
販売されているのに、
その良さをオーナーに薦めることも
できないわけです。

高い物を単にすすめるのではなく、
良い物を薦めることも整備士の
大切な仕事です。
良いバイクに乗りたい方は
たくさんいらっしゃいますから。

実は今の日本の一般道で走るとなると、
普通に乗っているだけでもピストンには
意外と大きな負荷がかかっています。

空いた道を流すように景色でも見ながら
淡々と走ると負担は少ないのですが、
走り自体を楽しみたい方は、
そんな走り方はすぐに飽きるでしょう。
こういう走り方でも回転時の充実感みたいな
ものが良いピストンは全然違います。

日本の道路はどちらかというと
いつも快適なペースで走れるわけではなく、
ゴーストップが多く、
止まったと思ったら加速、
そしてまた止まる。
これはメリハリがあるほど結構負担が
かかります。といいますか、
バイクはそこそこメリハリのある
運転が楽しい乗り物です。

また渋滞、低速で走らなければいけない
ことも多く、熱がこもり、これも
結構負担がかかります。特に空冷エンジン。

田舎道を快適に少し飛ばしたり、
高速道路を普通に走ってなどというのは
そのスピードの割に負担が少ないのですが、
さらにアクセルと大きく開け続けて
速く走るとなれば
高温高圧、燃焼ガスの温度も上がって
ピストンはそれにさらされます。
走っているうちに峠道なんかが出てきて
それほど極端でなくても、
ある程度加速、減速を繰り返せば
大きな負担です。

ということは、
こまごまとした道の多い
日本の一般道は、普通に使っていても
結構ピストンにとってはつらい環境なのです。
だから弱いピストンはへたり易く、
エンジンの性能がすぐに下がってきやすい。

メーカーから言えば
へたって出力が下がって走りが楽しく
なくなっても、故障ではなく
普通に走れるわけですから、
それはそれでよいということになると
思います。
ただ運転が楽しくなくて
移動の手段であれば車に乗って
自動運転になるのを待てばよい。
わざわざ暑いは寒いはで乗るバイクは
運転しての楽しさ、充実感が
大切なのではないかと思うのです。

また話がそれましたが、
古いバイクで渋滞を避けたり、

近年の真夏で一番暑い時期に走るのは
なるべく避けるのは当たり前としても
(乗ってる人間もつらいですし)
そのような時以外にも結構負担はかかって
いるんですよね。

最初はまともなエンジン
だったとしても負担がかかって
一番へたりやすい、
つまり出力の低下、
トルク感が下がるなどの

大きな原因は何か?

当社では一年中フルレストアや
エンジンのオーバーホールなどで
実際にエンジンを分解し
しょっちゅう中の部品の状態を
直接見ています。

それによってはっきりと言えるのは
ピストン、シリンダー回りの消耗

つまりへたりと、
バルブとバルブシートの密着具合の低下、
これです。

このどちらも状態が悪くなると、
著しくトルクも出力も下がります。
エンジンのオーバーホールなどは
同じバイクでずっと乗り続けるにしても
大きな故障がなければ
一生のうちに1度、2度くらいでは

ないでしょうか。

そのせっかくのチャンスを
大切に生かす。
それには高品質の鍛造ピストンが
必須だと思います。

当社ではエンジンオーバーホールの際には
車種が特殊で良い鍛造ピストンが
ない時以外は必ず使用しています。

そうではなく整備後に販売する車両を
製作する場合には、ピストンの設定が
ある車種でも純正ピストンのまま
整備をして販売する場合が
あります。

これは単純に購入しやすい価格に
するためです。

鍛造ピストンを入れるには
そこだけ作業すればよいのではなく、
その他の部分もその出力向上に
見合うように変更しなくては
いけなくなります。

そうなると車両1台の販売となると
価格が
結構上がってしまうため
購入できない方が増えたり、
あるいはエンジン以外の車体回りの整備が
予算不足で十分に整備できない状況に
なることがあります。

エンジン回りの作業では
そこだけに費用を集中できるので
まだいいのですが、
車両購入の場合はエンジンだけの
作業に比べ費用がかさみます。

基本的には最初から高品質なピストンを
組んでオーバーホールしてから
販売することが
ほとんどですが、
そこまで最初から予算をかけられない方には
とても程度の良いベース車両を使い
純正ピストンを再使用したものを
販売することもあります。

例としてはGPZ900R、
空冷Z系でいえばZ1000LTDなどで
状態の良い物を使い、販売価格を
抑えてというものを、納品することはあります。
純正ピストンの物でも
充分に走るようにして納品しますが、
ぜひ良い物を知っていただきたい。
そういう思いから書きました。


話は変わりまして。

販売車両として入庫しますと、
先日オーバーホール時のエンジンのみ

写真を紹介していましたZ1000R2は
車両を皆様に紹介する前に売れました。
ご購入いただいたY様ありがとうございます。

それに関連してもう一つ書きたいと思います。

当社では、なかなか更新できずに
やや情報は古くなっていますが、
ホームページなどで
エンジンオーバーホールや、
販売車両の車体の製作模様を
公開しています。

作業については日々進化しているので
公開している内容より
品質としては上がっていますが、
古い内容になっています。
すいません。

それ以外にもブログや
フェイスブックでも、私自身の考え方、
作業の模様などもできるだけ時間を作って
紹介しています。

このように内容を公開するのは
とても大切だと思います。
当社では一部のみを公開するのではなく
全面的に作業を公開しています。
隠すところはなく
見られてまずいところがないからです。

時間が取れる時が来れば
また別の車両なども紹介したいと
考えています。

これに関連するのですが、
時代は日々変わっており
変化のスピードは早くなるばかりですが、
以前は中身を全て知ってから購入とは
いかなかった商品が
全て知ってから購入できるものなど
でてきました。音楽など、いろいろありますね。

以前はこういうことをすると
商品自体が売れなくなるということで
反発がありましたが、
だんだん増えてきており、
さらにその傾向は進んでいくと、
私は思っています。

むしろこれは買う側からすれば
好ましいことで、

音楽でも本でも中身を知っても
欲しいというものがあれば
買うわけですから、
買う側としては失敗しなくて済むわけですね。
音楽でいえばすべて聞いてから
もっと繰り返し聴きたいから買うという
感じです。

以前は中身を知る前に
購入することがほとんどでしたから
買って、思っていたものと違う、
そういうことは良くあったと思います。
つまり騙された、てなことが減り
本当の意味での世の中実力勝負に
なるわけです。
古いバイクでもそれは良いことだと思います。

そこで、ですが今回Z1000R2が
入庫しますと
紹介したところ、
多くのお問い合わせをいただきました。
これはとてもありがたいことです。

いつものことですが、
車両は完成した状態での販売では
ありません。

今回入庫したZ1000R2も、当社で
以前にエンジンのオーバーホールは
終わっており、内容も詳しく1000枚以上
写真で残していますが、
それ以外のところは一切当社で
整備していないので、
あくまでベース車両として見ており、
これから時間をかけ整備して
その後に納品します。
先々エンジン以外全部ばらして
整備します。

また今回はフルレストアしてから
納品するわけではないため
どれぐらいまで仕上がってから
納品されるか、購入していただいた
Y様には、電話などで順番に説明し
仕様書を後には渡すのですけれど、
購入時には解らないわけです。

Y様以外に、フルレストア車、
整備車両、エンジンのオーバーホールなど
ご注文を先にいただいているお客様も
全て作業後に車両を手にするわけです。
あらかじめ完成車を見ているわけでも
直接乗ったわけでもありません。

そこで、先ほどのあらかじめ
内容を知ったうえで購入する話です。
例は解りやすいように音楽にします。
音楽ですべて曲を聴いてから購入する。
これはリスクとしてはゼロですね。
曲を聴いて気に入ったから購入する。

では古いバイクはどうか。
これはあらかじめ車両1台を先に
フルレストアしたりして、すべて作業を
終わらせ、完成品とする。
その際の作業内容を全て写真などで
残してある。そしてそれを販売する。
というのが私は一番良い策とは思っては
いないのですが、
先程の音楽を聴いてから買うというのと
同様の売り方で、買う側から
考えるとリスクが低い方法だと思います。

先程の古いバイクをすべて作業後に
販売の場合、

現時点では私はそれが一番良い方法とは
考えていませんが、
その理由としてはまず、

販売価格が高くなる。
完成しているのでお客さんの好みで
仕様を変更する場合はさらに金額が
高くなり、なおかつ一度で完成させたものより
品質はいくらか下がる。
それ以外にもいくつか細かい理由があり、
現時点ではベストではないと思っています。

ただこれも当社で製作できるバイクの
品質は今のまま、あるいは今以上に
上がって、なおかつ製作時間が
大幅に短縮できれば、
その方法がベストになる日がくるかもしれません。
極めて難しいことですが、
可能性がないわけではありません。

ですが今すぐそれは無理なので、
今ご注文いただいたいている
お客様は、完成品を見ずに
購入していただいている方たちに
なります。

ではなぜ信用して買って
いただけているのか。

それは私が今まで公開している情報を
見ていただいて、
音楽を全て聞いてから購入して
いる時と同様に、私の製作した
バイクも完成品をイメージして
買っていただいている。

エンジンのオーバーホールなどの
整備も同様です。

この時のリスクは音楽のように
ゼロではありません。
ですが、申し訳ないのですが、
現時点で古いバイクをリスクゼロを
追い求めて買うというのでは
チャンスを失うことになると

思います。

つまり、私の発信する情報で、
あらかじめ希望の車種が希望予算ぐらいで
出てきたら
購入しようという人がいた時には、
車両が出てきた時点である程度
購入の意思は固まっています。

つまり、車体が購入の時点で
完成していなくても、
買うと決めている人は
購入していただけるわけです。

しかも完成品ではないため、
注文時予算が許せば仕様の変更は
簡単。理想に近づける。
また当社としても完成したものを
見てから購入してもらってないため
お客さんの期待しているもの以上のもの
が納品できるように整備し、
仕上げます。
ですので、結果として
完成品のレベルは高いわけです。

いただくお金の追加は
お客様の希望で仕様変更が
ないかぎりありません。
ただし納品までの時間はいただきます。

この話は、言っていることが
解りにくいかもしれません。
ですが、購入したいと思っている方は
ベース車両の状態でも
完成品の形がある程度私の発信する
情報で見えており、
それで購入していただける。
ですから決断までが迷いがなく早い。

音楽をあらかじめすべて聴いてから
購入する感覚でいると、
古いバイクの場合は

良い物を手に入れるタイミングは
失ってしまうのです。
古いバイクは良い物の数が
少ないからです。

あらかじめ完成品を見られない
そこのリスクはあるのですが、
当社ではそれに値する情報は
少し古かったりして
充分に多いとまでは言いませんが、
それなりに多く発信していると思います。

リスクはできるだけ低くする
努力は必要ですが、完全にゼロリスクを
狙えばチャンスを失うこともあり、
購入する側も相当の目利きになる必要が
あります。

そしてゼロリスクだと思って買った
その辺に売っている完成品が
ひどいボロをつかまされたりして
結果高くつくことになったりします。
つまり古いバイクで目利きには
簡単にはなれないんですね。

今回の最後にもう一つだけ。

回りの環境の変化は
こちら側の都合とは関係なく
常に起きてしまいます。

それに対応し続けなければ
未来はありません。

頭を柔軟にして
常に変化しチャレンジを
続けることこそが
大切だと考えます。

その中で私は一緒に当社の
変化、成長を見ていただける方を
大切にしたいと考えています。

注文のやり取りが実際には無い、
ブログやフェイスブックを読んで
いただいている方たちも同じです。

ただ残念なことに
その変化を好まず昔のままで
いることが良いとされる方も
います。

申し訳ありませんが、
当社は常に変化を続けます。
今よりもっと良い私たちに
期待してくれる方を大切に
したいと考えます。

時間の使い方なども
20年前とは大きく違います。

時間を増やすことはできませんので
当社の時間を大切に考えて
下さる方のために
圧倒的な時間を使い
バイクを仕上げることが
当社の望みで、
古いバイクが仕上がったのを見て、
それに乗る、お客様にそれに
乗っていただけることが一番の

楽しみです。

私たちの時間の価値が
解らない方のために
時間は使いたくありません。

会社を大きくすることなど
一切考えていません。
それは仕上がりには関係なく
興味がないからです。

バイクは一年ごとに古くなり、
良い物は減り、欠品も増え、
部品は高くなり、
品質の維持はとても難しいのですが
どのお客様のバイクも
できるだけ良い物を納品したいと
思っています。

 

 

 

 

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