エンジン始動不良の原因:詰まったマフラーの影響

以前この様なことがありました。
長く動かしていないものの素晴らしく程度の良いバイクで、
足回りなどの車体回り全ての整備が終わり、
エンジンを始動する段階になりました。

キャブレターは純正でしたが中身の方は
チェックしていたので一発始動する予定でした。
ちなみに純正キャブは普段取り扱いをしていないので
タサキチューニングを立ち上げて約25年の間に
2台のみです。

エンジンの方も状態が良く、オイルとエレメント、
プラグを換えて、各部を増し締めした程度。

そしてセルを回すと、一発でかかるはずの
エンジンがかからない。
最初の方はうんともすんとも言わない感じでしたが
しばらくすると初爆だけはするようになりました。

初爆とは一瞬ボンと爆発がエンジンで
起こる感じの事で、
その後すぐに止まります。

通常初爆さえ起これば、その後何度か
その状態を繰り返せば少々調子が悪くても
そのうち少しエンジンが暖まって吹け上がる
ようになることがほとんどです。

ところが全くその気配がなく初爆のボンと
言う音と共にエンジンが止まります。

しばらくそれを繰り返して
このままではダメだということで、
各部をチェックしていきます。

まずはプラグから火が問題なく
飛んでいるかチェック、4気筒とも問題なし。

それに続いてエンジンの圧縮が正しくあるか
コンプレッションゲージでチェックします。
少しばらつきがあるものの問題なし。

点火時期も疑いましたが、
どう見てもノーマルで手を加えた後もなく
もし多少狂っていても火は飛んでいるわけですから
エンジンを始動させるいうことだけであれば
影響はないだろうということで
そこのチェックは省きます。

良い圧縮、良い点火ができているわけですから
普通に考えればここで影響が大きく出るのは
キャブレターです。

純正キャブは取り外し、取り付けが面倒なので
あまりしたくはないので最後になりましたが
キャブを外して、もう一度チェックします。

最初にエンジンに組みつける前に
各ジェット類の詰まりはないか、
セッティングが違っていないかは
確認してあります。

ですが負圧式のキャブでしたので
アクセルを開けたところで
こっちの思うようには動いていないことも
ありますから、再度チェックします。

ここでキャブレターのアイドル時に
燃料が出る穴に対してスロットルバルブが
4気筒機械的に同一状態になっていなかったため
それを調整し再度組みつけます。

ちなみに今回の場合はエンジンが
掛からないわけですから一般の
負圧式の同調調整とは異なる、
強制開閉式キャブの調整方法をとってます。

これでかかってくれるかなと
再度キャブを組付け、
期待をしつつ始動を試みますが
症状としては変わらず、残念。

原因をキャブでないことを確定するため、
純正キャブを外し、持っていたFCRキャブの新品を
試しにつけてみます。
インシュレーターの径なども違うので
それも合わせて交換。

この結果、初爆の勢いは強くなり、
掛かるのかな?という感じなりますが
結局ダメ。

ここでもう一度点火系を確認。
プラグを外した状態で火が飛んでいるのは
確認してありますが、
プラグをエンジンに取り付けると
火が実際には飛んでいないということが
車の整備士時代にあったため
(あるいは飛んだり飛ばなかったり、
この時は新品のプラグが不良品だった)
それが問題ないかを確認。これも問題なし。


そこで冷静にもう一度よく考えでみようと
車体の周りを見渡してみると、
普通はありえないことですが
マフラーかなという考えが頭に浮かびます。

ちなみに今回の純正マフラーは前から後ろまで
一体物なので、中で問題があっても
すぐに確認できない状況です。

これだけエンジン始動を繰り返していると
通常はマフラーの出口から
黒煙なり、白煙なりがほんの少しでも
出てきてもよさそうなのに
何も出てきていなかったことに
今さら気が付きます。

要は車体の状態が良く、マフラー自体(純正)も
見た目が綺麗で状態がとても良かったためマフラーが
詰まっていることなど予想していなかったのですが、
これは詰まっているのかなということで
とりあえずマフラーの出口から
初爆がおきた時に排気の圧力があるか確認します。

そこで初爆の際に本来あるはずの排気が一切ないことに
わかりました。

ちなみにここまで作業初めからすでに丸2日ほど
時間が経っており、少々イラついていますが冷静に。

マフラーを外すと仮にかかっても
爆音になってしまうのは困りものなので
マフラーがエンジンに取り付けられている側の
ネジ類を緩め、詰まっている時の排気の逃げ道を
作ってから再度始動を試みます。

そしてセルのボタンを押すと
今までのことが嘘のように調子よく始動し
何事もなかったように吹け上がります。

マフラーが詰まっているかもと考えが
及んだ時、頭に浮かんだ始動しない理由が
この時はっきりと確信に変わりました。

つまりエンジンを始動しようとして
初爆が起き、燃焼室内で爆発が起きて
排気ガスが発生します。

この排気ガスがマフラーが完全に詰まっている
状況のため、排気ガスがキャブレター側に
逆流してしまいます。
本来負圧にならないといけない所が
正圧状態、排気ガスだらけになってしまいますから
この瞬間にエンジンが止まってしまうわけです。

原因が解ればこんなものですが
何とも珍しいですね。
そもそも見た目が綺麗なマフラーが
詰まっているなんて。

そこで純正マフラーを外して
どうなっているかチェックします。

先ほど書いたように分割式のマフラーではないため
エキパイの方から針金を入れてみると
集合部くらいから後ろで詰まっていることが
確認できました。

そこで組付けた時に見えにくくなる個所に
4か所、穴をできるだけ大きくならないように開け、
最終的にフレキシブルタイプのスチームを
中に通して水圧でつまりを解消しました。

詰まっていたものは泥のような
ヘドロ状のようなもの。

幸い錆て詰まっていたわけではなく
綺麗に取り除くことができました。

その後穴を溶接で埋め、その部分を塗装して
エンジン始動。
サイレンサー内に水が残っているため
変な音がしますが、調子よく吹け上がり
エンジンオーバーホールした後のように好調です。

キャブレターの整備も効いているのでしょう。

この後車検を通して、実際に走行し
純正本来の調子で走ることが確認でき、
マフラー内の水分も飛んで
音も本来の状態に戻りました。

マフラー自体がボロであればすぐに気が付いた
気がします。

ただとても状態が良かったために気が付かなかった。
こんなこともあるのかという思いです。

その思いと共にマフラーが完全に詰まると
こういう症状が出るのかと知ることができました。

ということは、
マフラーの抜けが悪いものを取り付けて走ることが、
どれだけエンジンにとって悪いことか、
知ることもできます。

つまり抜けの悪いマフラーでは、
本来マフラー出口から排気ガスが
キチンと出ていかないといけないところを
それができない状態のわけです。

そうなると排気ガスがシリンダー側に戻され
本来キャブレターから吸いたい混合気を
吸う量が減るわけです。

そうなれば仮に排気量が1100ccのバイクでも
900cc分しか吸えないかもしれない。

さらに排気ガスですから温度も高いですね。
空冷エンジン車ならキャブから混合気を吸って
エンジンを冷やしたいところに
排気ガスが逆流してエンジン内の温度も
上がってします。

そうなればオイル漏れなども出やすくなるでしょうし
エンジンの出力も下がる。
バルブ回りの密着も悪くなるでしょうし、
良いことなんて一つもない。

もちろんそうはいっても今の時代
爆音で走るわけにはいかないですから
なるべく抜けよく、
できるだけ消音もできた方がよい。

ただし音を小さくするにはサイレンサー容量などの
関係で限界がありますから、見た目との兼ね合いで
選ぶことになります。

ただ今回のことは極端な例ではありますが、
マフラーが詰まれば(ぬけが悪ければ)
エンジンにとっても最悪、
迷惑この上ないという話でした。
もちろん整備する私たち、持ち主の方にとっても。







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