今日は当社で実際に行ったカワサキ車の
空冷GPZ750の保証修理を紹介します。
当社で販売する車両には保証が部分的に
ついているものや、
車体全体についているものなど作業内容、
販売価格によっていろいろありますが、
今回の車両にはエンジンに1年の保証を
つけていたのです。
今回紹介する話ですが
昨年納品したGPZ750のヘッドガスケットの
前あたりからオイル漏れが発生したとのことです。
遠方にお住まいなのですぐに見せてと
言うわけにはいきません。
ヘッドカバーのあたりからは近年カワサキ車の
カムプラグ(4隅にあるゴム部品)の材質が
変わった関係でオイルにじみが発生しやすく
物自体を変更したり、組み方を工夫したりしていますが
車種によっては発生しやすいものがあります。
ただヘッドガスケット部分については、
創業から20年以上になりますが
保証期間中に漏れが発生したことがなく
保証期間を過ぎても漏れが発生したのは
20数年で3件のみです。
そのうち1件は増し締めで止まりました。
もう1件はオーナーさんの取り扱いの間違い
によるオイル漏れ発生。
GPZオーナーさんに協力してもらって
外から締められるヘッドナットを規定トルクで
増し締めしていただきましたが
それでは治らず。
ヘッドガスケット部分については
納車前にこちらで行う走行テスト中に
おきるだけで、増し締めすると止まります。
今回のように納品してしばらく経って
保証期間内の1年以内に発生した
なんてことはなかったのです。
空冷4気筒エンジンは3番4番の間の部分は
(車体にまたがって左から1番、一番右側が
4番です)
熱による膨張具合が1番2番、3番4番部分とは
違ってくることと、中にカムチェーンが
通る空間があるため、オイルにじみが
発生しやすい構造ではあるのですが、
今回のような短い期間での発生は
今までありませんでした。
結果として増し締めしていただいても
オイル漏れが止まらず変化なしということで
当社で雨に濡れにくい陸送業者を手配し、
車両を預かって修理することにしました。
分解時に原因はすぐに解りました。
今回お客様に増し締めしていただいた
ヘッドナットは外から締められるところのみで、
きちんと適切なトルクで締められて
いるのが確認できました。
この部分、カワサキZ系や、ローソン系は
外から締められるこの12個のみなのですが、
GPZ750はそれ以外に外から締められない箇所に
ボルトが2本あります。
そのうちのエンジン前側1本のボルトが
締め付けトルクを確認した時に
トルクがかからない状態になっていました。


要はシリンダーの雌ネジがダメになり
ボルトの締め付けトルクが低くなっていたのです。
何十年もこの仕事をしていますが
この様なことは初めてです。
例えばカムシャフトの軸部を固定する
カムホルダーを締め付ける6mmのボルトは
ネジが細いこともありカムシャフトからの
上向きの力が断続的にかかるため、
ごくまれにネジ山が少しずつダメになって
締め付けが緩くなって来たりすることがあります。
と言っても組付け時にきちんと作業されていれば
これも殆どありませんが。
今回オイル漏れが発生した部分のボルトは
8mmの太さで、ネジ部も強いものですから
まず悪くなることはありません。
もちろん私の締め忘れなんてこともなく
一旦規定トルクで締めたものが、
納車後雌ネジに力がかかった時に負けてしまい
ネジがダメになってしまった。
結局それにより締め付けができていな状態に
なって、オイル漏れが発生したというわけです。
シリンダー自体は鋳物ですから、
鍛造品などと違い、部品製造時の
ばらつきでその部分が弱かった
ということだと思います。
そして組付け時には規定トルクできちんと
組みつけができていたのですが、
熱が入ったり(熱が入ると柔らかくなるので)
エンジン燃焼室の圧力も上向きにかかりますから
それによってネジ山がだめになったと
いうことです。
今回はそのねじ部分にヘリサートを入れ
修理しました。


また今回は後ろ側のボルトも問題は
発生していませんでしたが、念のため
そちら側もヘリサートを入れ同様のことが
おきないように対処しました。
後ろ側のヘッドボルト部分は
カムチェーンテンショナー締め付けボルトの
ネジ山と重なるところがあり
どうするか悩みどころでしたが、
散々考えてから問題がないように対処しました。
今回の修理は腰上の分解作業なので
車体からエンジンは降ろさずとも
作業自体は可能なのですが、
きちんと作業するならエンジンを車体から
降ろして作業する方が作業がしやすく
断然良いのでそのようにしてあります。
私が日産で働いていた時に優秀な先輩がいて、
修理をする際にエンジンを降ろして修理するか
しないかで、当時経験の浅い私が悩んでいた時、
「そんなもん降ろした方がいい仕事ができるから
降ろした方がいいやろ、降ろせ降ろせ」
とアドバイスいただいたことが根っこに
あるのです。
ディーラーの整備でエンジンを降ろす作業
なんてのはとても少ないのですが、
そんな時でも躊躇なくそういうことを
教えてもらえる、
あの頃は働いていた会社にも
余裕がありいい時代でした。
エンジンを降ろして作業することによって
きちんと作業することができますし、
ついでに言われていはいないけれども
他の部分のチェックもできる、
車体側のエンジンで隠れている箇所の
掃除もできる。

またエンジンの下側や、
エンジンを載せたままでは掃除しにくい
フィンの間など、できる範囲で掃除して
綺麗にしておきました。
あくまでざっとですが汚れが気になるんですよね。




綺麗な方が結果として自身の作業がしやすく
なりますしね。触るたびに手が汚れていては
気分が悪いのです。
そして腰上をばらすわけですから
バルブクリアランスも再調整できますし、
中の部品のチェックもできる。
ヘッドカバーガスケットや、カムプラグなども
新品になり、燃焼室内の状態も確認でき
非常に良い状態で燃えていました。
今回オーナーさんの希望で油温計を
取り付けたのですが、(こちらは有料)
それも含めコンデションの維持が
よりしやすくなると思います。
テストで乗りましたが、
スタイル、エンジンの出力特性、
エンジンの回転のフィーリング、
扱いやすさ、そして音。
フロンフォークの動きにややその時代の
渋さなどがあり、そこが唯一の改善
したいところではありますが、
実に良いバイクです。
良いものがあれば仕入れたいのですが
見つからないんですよね。
繰り返ししつこいですが、GPZ750、
本当にいいバイクです。
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