古いバイクに普通に乗れるは簡単なことではない。

先日2人で来店していただいた方が、
「普通に乗りたいだけなんですけどね」
(古いバイクのこと)と言われていました。

この普通に乗れるってことが、
口で言うと簡単ですが、
そうではないということを今回は
書きたいと思います。

つまり当たり前と思っていることは
以外に大変だと。

先ほどの方たちは、バイクの購入の話で
来店されたわけではないのですが、
他の方からも軽い感じで「普通に乗りたい」
てのは良く聞く話で、その軽い感じのまま、
ろくすっぽ整備もしていない古いバイクに、
少し手を加えれば普通に乗れるようになると
思っている方がいます。

実際に古いバイクをどのように手に入れ、
どのように手を加えれば普通に乗れるように
なるのか、詳しくは解らずとも、
古い物だから、それが簡単ではない
と感覚的に解っておられる方もいて、
そういう方は古いバイクを購入する、
手を加える、それが自分で行うにしても
失敗しにくいです。

Z1なんて、もう約45年前のバイクですよ。
MK2でも40年ぐらい。
冷静に考えれば解るはずです。

整備であっても同じように
軽く考え、新しいバイクをディーラーに
整備に出すのと同じように、
古いバイクの大がかりな作業となる
エンジンオーバーホールやレストア作業などを
簡単に依頼してしまう。

それでは普通に乗れるバイクには
仕上がらないでしょう。

例えば中古の家を購入するとして、
お金さえ払えば普通に暮らせる良い家が
買えると思っている人と、

良い家は簡単には手に入らないと考え、
(建っている場所もどこかも含め)
購入する会社を良く調べ、
家の状態や、リフォームは必要か、
回りの環境などの情報も集め行動するのであれば、
同じ金額で手に入る物が全く違って
くるでしょう。

誰と出会うか、店が決まっても
担当が誰になるのか、人との
出会いの運もとても大切です。

そして実際に行動すれば、
自分が望む理想の家を得たいなら、
これぐらいの金額が必要になる、
こういうところは気をつけた方がよいなどと
具体的な事が見えてきます。

軽く考え、ろくに調べもせず
簡単に手に入る情報だけを信じて、
物事を詰めて考えないのは危険です。

それで上手くいかなかった時に、
人のせいにするのはどうか。
50点の仕事しかできない人に
100点の仕事をさせようとするのは
無理な話です。70点ぐらいは頑張れば
できそうですけど。

先ほどの2人の方と話していた時に、
たまたま当社でZ1000R2を
買っていただいたお客様がオイル交換に
来ていました。

その2人と話しているのを聞いて、
オイル交換のお客様が、
「丁寧に説明するんですね」
と言われていましたが、
当社に注文が入る入らないは結果論で、
来店していただいた方には特に、
持っている情報は何でも話します。
今回も私が確か2時間くらいは
話していたと思います。

普段私は予定が詰まっているので、
電話に出たりできませんが、
それは必要な時には充分な説明などの時間を
とれるようにするため、作業の時間を
確保するためです。

誰でも対応できる、
送られてくる荷物の電話などでも
何度も対応していては
たくさんの時間を失います。

そうなると、きちんと説明したり、
話すべき時間がなくなってしまいます。
ですので、普段は電話などにはでず、
あまり皆さんと話をする機会はありませんが、
事前に連絡をいただいて来店していただいた時には、
ブログやフェイスブックなどにも書けないような
事でも、その場で詳しくお話します。

それには当社にとってマイナスになることも
(他店に注文した方が良いと薦めることなど)
ありますが、結果として正しい情報を
持って帰って欲しいからです。

その中で「古いバイクに普通に乗れる」
は簡単ではないということを、知っておいて
いただく必要があります。
普通に乗れるはレベルの高い話なのです。

まず、エンジンが動いているだけで、
一年中ばらしたり、しょっちゅう修理している物は、
普通に乗れていることにはなりません。

次々にあれをしなければ、これをしなければ
ということがでてくるものも、心穏やかに過ごすことは
できず、とても普通に乗れているとは思えません。

私の考える普通に乗れるとは、
バッテリーをたまに充電すること、
タイヤの空気を入れること、
時々車体のまし締めを行うこと、
後は点検を車検時で良いのできちんと行い、

その上で、次はどこに走りに行こうか考え、
乗りたい時に乗れ、維持費が主に消耗品で、
(タイヤ、オイルなどや、その車種特有の
定期的に交換や整備した方が良いところの整備)
先々の計算ができるものです。

そして実際に乗れば、
それぞれの車種の本来持っている性能と
各部品の性能を充分に発揮し、
加速、減速、旋回を満喫でき、
現在のバイクとはまた違う、
運転しての楽しさを得られるもの。

単に速いなどということではなく、
そのバイクの良さ、魅力が解るものです。

私の考える普通に乗れる古いバイクは
こういうものです。

考えて見てください。
40年もたっているバイクがこれって
レベルの高い話だと思いませんか。

ではそれを得るためにはどうしたら良いのか。

もし車両を購入する所からスタートするのなら
後で整備やレストアをするからと言って、
はずれのベース車両を買っては
いけません。
何度も繰り返し言っていることですが、
この外れクジを引かない事が一番重要で、
とくに近年一般の方にはとても難しく
なってきました。

簡単に言えば当社を立ち上げた約20年前より、
遙かに高い金額のものでも、
確実にボロの割合が高くなっているのです。
これはオークションの様な業者を通さない
ものでも同様です。

20年前は販売台数が多いので
比較的探しやすかったZ1を仮に今探すとして、
国内外、10台候補がでてきたとします。

そのうちにベース車両として使える物が
20年前は5台あったとしたら、
今は1~2台しかない、
そんな感覚です。しかも高くなってます。
Z1はまだましですが、
もともと手に入りにくい車種は
もっとその傾向が強いです。

はずれクジが多くなっているのですから、
良い物と悪い物が解らない一般の方が
Z1を買うとなると上っ面化粧をした
ダメな物を買う確率が大幅に上がっていると
思います。

逆に言えば20年前に買ったZ系を動かさずに
持っているのなら、そちらの方が程度が
良く、お宝なのかもしれません。
そういうものがあるのなら、是非連絡いただいて
もう一度動かしてほしいです。

良い物をベースにする必要があります。
良い物とは、簡単に言えば傷んでないものです。

元に戻す、普通に走れる状態にするのに
手間や費用が余計にかかる物は良いものでは
ありません。それがお金を失う外れクジです。

新しく持ち主になる方の完成形を
最終到達点として、
最小の手間と費用で良いものに仕上げられる
物が良いベース車両です。

ただ安い物が良いベース車両ではありません。

良いベース車両でも、
フルレストア向きな物と、
レストアは部分的に行い、後は整備で乗る物は
選ぶべきベース車両が違います。

ですがどちらにしても、フレームと
エンジンの状態が良いこと、
仕上げる形に必要な部品がそろっている
方が良いベース車両です。
部品がダメだと手に入れるのに費用も
労力も使うこととなります。

つい最近、当社もZ1000R2の
アンダーブラケット、
(フロントフォークを固定する
ステムキットの下側の部品)
探すのに大変苦労しました。
今回は今日ご連絡をいただいて、
当社のお客様が売っていただけることに
なりました。とても感謝をしております。

次に使用する部品、と各加工です。
良い部品を使い、加工を依頼する必要が
あるときには良い外注先を見つける必要があり、
それをさらにチェックする必要があります。

最近話が良く出てくる、
メーカーの車のバルブスプリングが
悪いなんてことまでは、
直接その部品を見られたとしても、
見た目で私達が判断することは到底
できませんが、そういう事でなければ、
経験からかなり部品の良い悪いの見分けが
つきます。

純正品にも、時に悪い物がありますが、
社外品の方が悪い物が多いのは間違いありません。

また普段は良い部品でも外れ(たまたま品質が
悪い物)を送ってくることがあります。
本来そういうものは出荷されないのが理想ですが、
小ロットで製作されるバイクの部品は
間違いが起きることがあり、
有名メーカーの物でも、仕上がりをチェックする
必要があります。

そういう悪い物は使わないことが大切で、
当社ではクレームが効かず有料になっても
作業のやり直しを依頼することがあります。

先日納めたZ1ではシートの表皮の張り替えを
シート屋さんに依頼しました。その皮自体が
今までの物と違い(見た目は同じ)
乗ってみると感触が希望の物と違ったので
再度別の表皮を使い貼り替えてもらいました。

こういう場合はクレームが効かず、
追加の費用が必要になります。

要は普通のバイク屋さんなら文句がでない
品質だからクレームはきかないのです。

ですが実際に乗れば、今までのものと違うと
当社側で解ったので、気にいらないから
再度やり直してもらう、となるわけです。
となると有料になります。

もちろんお客さんにいただく金額は
変わらないので、当社では万円単位の手だし
ですが、こういうことは普通にあることです。
こうやって品質を確保してきたのです。

使う部品や加工の良い悪いもありますが、
その部品の選択自体が間違っている場合も
あります。

良い悪いがとても解りやすいのが、
マフラーやキャブレターの口径で、
物が悪いと加速は悪いわ調子は悪いわ
音は悪いわとなります。

マフラーは見た目の印象も大きいので、
見た目が好みで、機能面でマイナスでなければ
オーナーさんが気にいっていれば良いと言っていいと
思いますが、明らかにそのマフラーをつけることにより、
走りや音が悪くなったのなら、選択が
間違っていると言えると思います。

キャブの口径の大きすぎる物は
セッティングがでにくくなりますし、
調子も崩しやすい。とくにCR。
小さすぎると乗って前回書いたように
フラットトルクの様な感じになり面白くなくなる。
これはFCRも同様。

後、もう一つ部品関連で解りやすいのが、
ニュートラルがでやすい、でにくいとなった時の
クラッチ回りの部品。
もし新品の部品を使っているのに
信号待ちでニュートラルが出しにくいのなら、
クラッチ回りの関連部品の組み合わせが
悪いのかもしれません。

どの部品もそうですが、新品だから、
高性能品だと言われている部品でも、
あなたのバイクにあっているか、
良く考える必要があります。
もしそれが間違っているのなら、
普通に乗れるが、できなくなります。

この選択、見た目も金額も大事ですが、
きちんと機能面でもまともな物を
選ぶことができますか。誰が正しい情報を
与えてくれるのでしょうか。
普通に乗れるは難しいのです。

車体、部品ときて、
最後にとても重要なのが、
人の力です。

まず、きちんと組み付けられるということ。
当社の様に古いバイクで、
わりと同じ様な物を扱っていても、
人により大きく完成度が変わると思って間違い
ありません。

10人整備士がいる会社があれば、
優秀な1番から問題ありの10番まで
仕上がりに差がでるのは当然です。

あなたのバイク担当が10番目の人なら
どうでしょう。運が悪いであきらめることが
できますか。

それが新しいバイクで、ディーラーの様な
仕事であれば、年中エンジンオーバーホール
する必要もなく、車体の全バラをする必要もなく、
もちろん元々車体の程度そのものが良い。

1~10番まで実力に差があっても
1番が他の人の面倒を見つつ作業すれば
充分にこなせると思います。

これは一部のみを分解して、作業すれば良いと
いうことが多い新しいバイクを扱うので、
メカニック10人でも、古いバイクの整備ほどには
大きく仕上がりには差がでにくいのです。
(レースなどでなければエンジン全分解など、
ほぼないと思ってよいのではないでしょうか)

それに対し、
エンジン、車体を全てばらしてなんてのが
当たり前の古いバイクは人の力による差が
大きくでます。

実力が1番と2番でも差がでます。

元々の程度にバラつきがあり、変更する部品が
多く、その部品は価格が高く、レストアもしなければ
ならない。その上でばらしまくった上に
全てを組み付け一台の形にします。

その中の作業で、
とくに重要なエンジンのオーバーホールも
含まれます。

古いバイクは作業する人の実力と、
モチベーションが大きく影響のでる物で、
普通に乗れるバイクに仕上げるために、
特に人の部分が大きな割合を持ちます。

どんなに良い部品が合っても
良い整備士がやる気を持って作業しないと
出来上がる物はたいしたものには
なりません。

ですから、やる気のある素人の方が
真剣に作業すれば、
やる気のない、自称プロに仕上がりで勝つことも
あり得るのです。

だからオイル交換などはやる気のない
雑に扱うプロにお金を払ってしてもらうより、
あなた自身が丁寧に行う方が良い事もあるのです。

ですから新しく人が入ってきても
整備でも何でも最初から誰にでも
どんどんさせるというわけには行かず、
しっかり考え方が同じ方向、同じレベルに
なるように導きつつ、経験を積ませてから、
難しい作業はさせる必要があります。
誰でもかれでもできるわけではない。

そして車体が完成してから、
ここから最終仕上げです。

当社では車体が形になると気の緩みがちな、
完成後の走行確認を、再度気を引き締め
大切にしていますが、
運転してこそ気付く部分があるのです。

エンジンも大きな一つのパーツと考えられます。
そしてフレーム、サスペンション、
ホイール、ブレーキ、キャブレター、
マフラー、各部品が1台のバイクになってます。

そしてその各部品が本来の性能を発揮できるように
調整をします。

慣れた車種なら、だいたいは組み付けた状態で
OKになってますが、
そこから確認し必要なら微調整します。

スロットルの遊びはどうか、
クラッチ、ブレーキのレバーの高さはどうか、
ハンドルの角度は良いか、
ハンドルの切れ角は問題ないか、
(調整できるタイプのみ)
キャブレターのセッティングはどうか、
エンジンからのオイル漏れ、にじみはないか。
シフトペダル、リヤブレーキペダルの高さはどうか、
真っすぐ走るか、
エンジンの始動性はどうか、
エンジンから変な音はでていないか、
エンジンは本来のパワーを発揮しているか、
吹けあがりに問題がないか、
音も本来の音がでているか、
ブレーキの効き具合はどうか、
車体の姿勢が変ではないか、
バイクを寝かしていく時に、
ハンドルはその車種本来の切れ方をするか、
Uターンはしやすいか、
乗りごこちは悪くないか、
サスは自然に動いているか、

この様なことを走って確認、必要なら
調整します。

チョイ乗りだと充分に確認できないため
だいたいフルレストア車で、遠方に
住んでいる方の場合は200キロぐらい走ります。

これぐらい走れば、今までの経験から、
充分に確認でき、
納車後は普通に乗れるからです。

これが私達の考える普通に乗れるバイクに
するための考え方です。

普通に乗れるようにするためには
小さなことの積み重ねが必要です。

どこそこで加工してもらった。
高いパーツを組み付けた。
そんな程度で、普通に乗れるように
なるとは思えません。

最後は人だと思います。

今回最後に紹介する写真は、
Z1000R2のクランクケースの
クラックの修理です。

これも普通に走るための修理です。

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました