旧車バイクの望むこと(2)エンジンシリンダー編

旧車バイクの望むこと

今回も重要なシリンダー編です。前回は主にシリンダーライナーを交換するか否かという内容でしたが、今回はシリンダーの上面だけでなく下面の修正の大切さと、ライナー部分に埋め込むオーリングについてです。使用している写真はすべて当社で実際に作業したときのものを使用しています。

NO3の写真がカワサキZ1のライナーを抜いた下面の写真です。

当社が主に取り扱う空冷4気筒エンジンのヘッド、シリンダーは真ん中にカムチェーンが通る大きな穴の部分があります。カムチェーントンネルという時もありますね。NO5の矢印部分です。

この穴のせいとは100%言い切れないのですが、この穴回り部分の肉が薄く弱いのは確かで、なおかつエンジン中央でカムチェーンを張ることにより力が加わっているため製造より長く時間がたった旧車バイクの場合、シリンダーが解りやすく言えばVの字状に曲がっていることがあります。(数値的にはわずかにですが)その曲がり以外にもシリンダーにひずみがでていることがあります。

シリンダー内をピストンが上下運動するので、ピストンサイズに合わせた穴を開けるシリンダーボーリング作業をする時は、シリンダー下面が真っすぐの状態でボーリングしないとその穴が天地方向に真っすぐではなく、わずかといえども斜めに曲がった状態でボーリングされてしまいます。

穴がわずかにとはいえ斜めに開いてしまえば、その穴の中を本来クランクシャフトにつながったピストンが真っすぐ上下に動きたいわけですから、機械的にこじれた状態、スムーズに動くことを妨げる動きになってしまうので良いわけがありません。

そこでシリンダー下面が曲がっていたり歪んでいたりすれば修正の面研などをする必要があります。
この時に前回書いたシリンダーライナーが抜かれた状態でないとライナーが邪魔になって修正ができません。そもそもシリンダーライナーを抜いた状態でないと歪みや曲がりについては測定そのものがしにくいですし、もし曲がりなどが解ったとしてもライナーを抜かないと修正もできない。ですので、正しくライナー打ち換えボーリング作業が行われるのであれば、その方が作業のランクとしては上になります。

ですからシリンダーライナーを抜かずにボーリングやオーバーホールする前提の車種、例えばCB750FやCBX1000などを購入する時は、元々の状態ができるだけ良いものを買っておく方が良いという事になります。目利きが必要になるわけですね。私は安くてボロを売って儲かるより、数が少なくてもきちんとしたものを売りたい派です。

旧車バイクの場合、エンジン、車体のどちらかだけ程度が良いという事はほとんどなく、たいがい両方とも良いか悪いかになります。
本当に状態が良いものを納めようとする業者が、お客さんの支払い金額が高くなってしまうのになぜそこまでベース車両の状態にこだわるのか、たとえお客さんがその意味を100%理解できないとしても、まともな業者であればあるほどレストアやオーバーホールする元になるベース車両の品質にこだわる理由がこういうシリンダーだけでなくあちこちにあるのです。ボロには何をしても元々良いものにきっちりと整備を施したものの様には走らないし長持ちしない。

そこでシリンダーの下面を修正面件したものがNO6の写真です。


ここの面研の費用は1万円ぐらいでしょうか。当社でも必要な時は行いますし、必要でなければ行いません。オーバーホールやレストアの時はセットメニューですので、これぐらいの事であればいちいちお客さんに請求したりするような店は少ないと思いますが、利益自体は確実に減ります。まともな店は見えない部分で、かつ利益が減ってもこういうところもきちんとこだわっているところを知っていただきたい。

次のNO7の写真。

矢印の部分には純正でオーリングが入るようになっています。これはクランクケースの方から上がってくるオイルがシリンダーとシリンダーライナーの間に入らないようにするためのものです。

写真のシリンダーはZ1のもので本来ここの溝にオーリングがついていますが、写真では取り外してあります。同じカワサキでも1000ccのZ1000R2はついていません。このオーリングは実際に使っていると硬化してしまい、意味がなくなってしまうのですが、あるかなしかでいえばあるほうが良いです。

実際にここにオーリングがなくてオイル漏れが生じた例が写真NO8のZ1000R2のシリンダーの写真です。

シリンダーに巣があってエンジン内と外がつながってしまっており、そこにオイルがじわじわとクランクケース側から流れこんでてきたため、普段はオイル漏れしないところからオイルが漏れています。
外から対処しやすい部分にオイル漏れが生じた場合は簡単に治せるときもありますが、この写真ように対策できない場所の時はシリンダー交換となります。

先ほど書いたように純正の空冷エンジンNO7の写真のように外から見える下端にオーリングが入っています。ではより外径の大きなライナーに交換する場合はどうするのかと言えば、シリンダーを加工して、外から見えない部分にオーリングを埋め込むようにします。これについてはどこにどのように埋め込むかは施工企業のノウハウという事で写真は公開できないのですが、シリンダーに埋め込めこむように加工が施されています。

そうすることにより大きいライナーに交換してもクランクケースからのオイルがシリンダーとシリンダーライナーの間に入らなくなりオイル漏れが減らせるわけです。
外から見える部分にオーリングがある時よりも、そのオーリングの寿命は断然長くなりますが、それでも年数が経ったとき、また一度エンジンを分解するとそれきっかけにオイル漏れが生じることがあります。当社でもそこの対策を新たに考えています。

またライナー打ち換えボーリング後はシリンダーの下面だけでなく上面も面研を行う必要があります。
打ち換えたライナーのつばの部分とシリンダーとの段差をなくすためです。
下面と上面を面研すれば上下方向の寸法が若干ですが短くなります。そうなると使用するピストンによっては圧縮比が予定よりも高くなってしまうため、シリンダー下面のベースガスケットを少し厚めのものを使用して、圧縮比が高くなりすぎないように調整する必要があります。例えば普段0.8mmの厚さのものを使う時には1.0mmのものを使用するなどです。
空冷エンジンはノッキングが生じやすいので、圧縮比が高くなりすぎないように注意する必要があります。なんでも高ければ偉いというわけではありません。
またカワサキZ系シリンダー上面中央、カムチェーントンネルの回りには大きいオーリングが入るのですが、そこの溝も面研をすることにより許容範囲より浅くなってしまった場合には再度溝を深く掘る(わずかにですが)加工をする必要があります。こういうところもきちんとしていない業者が多いですね。

またカワサキZ1はシリンダー上面のオイルが通る通路4か所に大きめの面取りが施されています。NO9の写真です。

後期モデルのZ1000MK2などはそれが良くないと思ったのかその面取りはありません。使用するヘッドガスケットによってはその面取りはないほうが良く、当社のここ数年のZ1ではその面取りはなくなるように加工しています。その方が長く使ってからのヘッドからのオイル漏れが減らせるようです。
NO10の写真です。

そしてシリンダーライナー打ち換えボーリングのすべての作業が終わったのが
NO11、NO12、NO13、NO14の写真です。

NO14の写真にオーリングは見えませんが、内部に埋め込まれています。

シリンダーについて2回に分けて書きましたが、これらのことは特別なことではなく、むしろエンジンのオーバーホール、レストアでは当たり前のことだと思います。(最後に書いた面取り部分加工は除く)

この当たり前をきちんと行っているか否かで、エンジンオーバーホール後に10年20年と調子よく、しかもパワーダウンが少ないというエンジンオーバーホール本来の目的がかないます。こういう見えない部分一つ一つをきちんとするのが本来のオーバーホールで、それを行わないのはただの分解組みたて、オーバーホールとは呼びません。

私は安くて良いエンジンのオーバーホールやレストアなどは存在しないと思っており、価格が安いのであれば、それは本来すべきことをしていないからだと思います。意味なくやたらに高い物があるのは事実ですが。

あなたのエンジンのシリンダー大丈夫ですか?

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