ミッションアンダーカット加工とキャブ

エンジンのオーバーホール時に行う
ミッション各ギヤの爪部分のアンダーカット加工と
それに関連することを書きます。
オーバーホール時には必須の加工です。

これを行っていないと、
ギヤを正確に入れていたにも関わらず
アクセルを大きく開けた時、
エンジンブレーキが強めにかかった時などに
いきなりギヤがニュートラルになったように
ギヤが抜けるようになってしまうことがあります。

ちなみにシフトした時に上手く入らずに
ニュートラルに入ったみたいになるのは
シフトミスですので、混合しないでください。

それは後の文を読んでもらえばなんとなく
わかると思いますが、
ギヤの爪の部分の頭同士がぶつかると
上手く入らないことがあるからです。

いきなり話がそれました。
元に戻します。

もちろんギヤ抜けはすぐに起きるわけではなく、
一旦入ったギヤはシフトフォークという部品が
ギヤが抜けにくいように保持してくれています。
シフトフォークの写真はこちら。

IMG_0691

ところがアンダーカット加工をしていないと
アクセルを開けたり、強いエンジンブレーキが
かかった時など、
ギヤに力が加わったとき抜ける方に動いてしまい
このシフトフォークに強く当たるように
なってしまいます。

そうなるとそのあたっている部分が削れ、
だんだんガタが大きくなって、
正確にギヤが奥まで入らないようになります。

その状態でミッションのギヤに負荷がかかる
状態になるとギヤが抜けやすくなります。
またシフトフォークが減っていなくても、
強めの負荷がかかった時に抜けてしまう場合もあります。

アクセルを大きく開けた時、強めに
エンジンブレーキがかかっている時に
ギヤが抜けた時を想像してみてください。
相当に怖いです。

私もギヤ抜けの修理依頼でZ系と、
ゼファー1100、ZZ-R1100c型、
Z1000Rなど何度かそのようなものに乗ったことが
ありますがかなり怖いです。
とくにスピードが出て使うギヤが抜ける場合。

ギヤが抜けた瞬間にエンジンの回転も
高回転まで一気に回りますから、
運が悪ければオーバーレブ状態で
エンジンをブローさせてしまう可能性もあります。
ですからエンジンオーバーホール時には
必須の作業です。

最初に紹介している写真ですが、
全て空冷カワサキ車のギヤで4台分になります。

この写真はミッションの部品全てではなく、
加工しなくてはいけないギヤのみの写真です。
すでに爪の部分はアンダーカット加工済みです。

これら写真は当社で現在注文を受けているもので、
シルバーのステンレスのトレーにのっている物が
それぞれZ1、Z900、Z1000で、
(以下Z1系と書きます)
そして1台だけ白のトレーにのっているギヤが
Z1000R2(以下R2と書きます)の物です。

当社ではアンダーカット加工を機械加工で
行っているものと、手作業で行っている
場合があります。
細かい作業で時間もかかるため作業中は
とてもストレスが溜まります。

紹介しているZ1~Z1000の物は
ほぼ同じと言ってよく、R2だけ違います。

今回注目していただきたいのは
(写真を見てください)
IMG_2786
ギヤについている爪の数で、
Z1系の物は爪の数が3個の物と、
6個の物があります。
ですが白トレーのR2の物は全て爪が6個に
なっています。

この爪の部分がギヤ同士で噛み合うことにより
エンジンのパワーを伝え、アウトプットしています。

当然強い力がかかりますから、
それゆえに強度アップのため、
ギヤ抜けの対策でZ1系が爪3個だったものも
R2では6個に変化したのだと思います。

実際に乗るとR2の爪が6個タイプは
シフト時にやや渋く感じられる印象です。
ややゴリッとした感触が伴う場合もあります。
シフトチェンジで言えばZ1系の方が
とっつきやすいです。

特にR2などのローソン系、J系は特に
純正ステップのままで距離を重ね、
リンケージなどにガタが大きくなったり、
クラッチディスクが歪んできたりして、
引きずりが多くなると、
なお渋く感じられるようになります。

もちろん構造的にタイミングを合わせれば
問題ないのですが、
この爪の数が3個の物は120度につき1つの爪、
6個爪タイプは60度ごとに爪がある勘定になります。

要は6個爪タイプは爪と爪との間隔が狭く、
ギヤを抜き、そして入れる操作を、
タイミングよく爪が3個のタイプよりも
短い時間で行わなければならないため、
(ほぼ無意識で行っていることでは
ありますが)ややタイミングが
合いにくい時があります。

短い瞬間のことですからリンケージなどに
ガタがあると操作のタイミングにズレが生じ
変速時に余計渋く感じられます。

ここでそもそも爪の部分のアンダーカット加工とは
何かということを説明したいのですが、
紹介しているZ1系からR2のものまでは
この爪の部分が90度直角になっています。

この爪が空冷後期モデルにあたるZ1100Rや
空冷GPZ1100ではこの部分が力がかかった時に
よりこの爪が食い込みやすいように
90度直角ではなく、
純正の状態であらかじめこの爪の部分に
角度をつける、アンダーカット加工が
されていいるのです。

ここで加工後のアップの写真を見てください。
まずZ1系の爪の写真です。
IMG_2792

上のほうが少し広がっているのが
解ると思います。反台形とでもいいますか。

そして次の一枚はR2の加工後の写真です。
IMG_2788
こちらは今現在ほとんど解らないぐらいの角度で
加工しています。
実はこのように角度をほとんど付けない作業の
ほうが難しいです。

Z1系とR2で角度を変えているのは、
R2(いわゆるJ系ですね)の方がZ1系に比べ
元々ギヤ抜けが起きにくく、シフト時に渋い傾向なので、
角度を浅めにしています。
これで一般乗りでは充分だと解ったもので。
昔はZ1系と同じにしていたのですけれど。

もちろん加工することにより、
少しは強度が落ちると考えられますが、
昔Z1系をシフトミスで5速の爪を折った人が
いましたが、それ以外は壊れたことはありませんので
ご心配なく。

飛ばしている時にシフトミスして4速から
5速に上手く入らなかった時に
無理やり入れて壊してしまったのです。
そりゃ壊れますわね。

ちなみにGPZ1100の後のモデルで水冷の
GPZ900R、その後のモデルも、
あらかじめアンダーカットされた状態になっています。
つまりメーカーも必須と考えているわけです。

これら後期モデルと同じようにするために、
もともと加工されていない今回紹介している
Z1系~R2も加工をしているわけです。

先ほどZ1系やR2などの爪は90度と書いていますが、
実は使われていくうち、この爪の部分が
ギヤが抜けやすい方向に傾いてしまっているものが
あります。

わかりにく表現かと思いますが、
私たち人間が部屋の壁を押したとき
その壁が少し力で傾き、そのまま元に戻らないと
お考え下さい。
そうなったら困るでしょ。
そういうことがエンジン内で起こっていることが
あるのです。

今までの経験でZ系などで一台エンジンを
オーバーホールすると状態の良いエンジンでも
何個か爪が傾いています。
(あるいは古いものですから、最初から
少し傾いていた可能性もあります。)

それとは別に、クラッチをきちんと切らないで
シフトされていた車両や、
クラッチケーブルが悪かったりしたもの、
クラッチディスクが歪んでいたり、
品質の悪い強化クラッチなど、
クラッチかきちんと切れない状態で
使われたものは爪の部分が
著しく削れているものがあります。

そういうものは整備状況や乗り方が悪い。
そうなるとこれもギヤ抜けの原因になります。
ノークラッチでも変速できる構造ですが
クラッチを切り、正しく、丁寧に変速しましょう。
古いバイクのギヤは欠品も多いですし。

当社のエンジンオーバーホールや、
販売する車両でエンジンを分解するときは
加工されていないものは全て行っています。

さらに適切なタイミングでシフトできるように
クラッチの整備、クラッチレバー周りの整備、
悪ければ変更、ケーブル類の整備、
クラッチレリーズ機構の整備、悪ければ変更も
同時に行います。
そうでないと、ミッションだけ良くても
意味がないのです。

それこそが本当のオーバーホールだと考え、
エンジンだけ良くても結果が出ないのだから、
その他の回りの部品の状態も大切。
それが作業に責任を持つということでは
ないでしょうか。

それとも少し関連するのですが、
エンジンオーバーホールなどの問い合わせ時に
キャブレターは純正でお願いできないかと、
めったにないのですが、数年に一度くらい
聞かれることがあります。
つい先日、数年ぶりにZ1000R2でありました。
これを聞かれるたびに少しガックリくるのですが、
別に好みの問題で悪いことではないのです。

ホームページ内にも書いてますが、
当社ではエンジンオーバーホールを行う際に
キャブレターはFCR、CRなどの
社外品を使用し、純正キャブはお断りしています。

CRは構造がシンプルで消耗して交換する必要が
あることはほとんどないのですが、
FCRでは程度が悪いものもあり、そういう場合は
予算が出来た時で良いので交換を、と
お願いしているぐらいです。
キャブにこだわります。

純正キャブを使わないのは
一つのことから判断しているわけではなく、
複数の理由から総合的に判断しています。

先日その返信したお客様にも少し書きましたが、
それも理由は一部のみ書いて返信しました。
使いたくない理由は言い出すとキリがないほど
たくさんあり、使っている人に対しあんまり
いろんなことを書いてもと、思う部分もあり
少しにしました。

純正キャブを使う、使わないは考え方の違いであり、
そのオーナーさん、店が何を重視しているか
していないか、優先順位の違いでもあります。

だからバイクをどのように仕上げていくか、
以下の3つに大体大きく分けられると思いますが
だいたいこのようなことです。

全て純正のままをめざす、

当社のように純正の雰囲気を大切にしつつ、
機能面では手を加える、

原形はあまり気にせず好きなようにカスタムする、
などに大きく分けられると思いますが、
それぞれどれが正解などはないのです。

持ち主の自由にするのが楽しいのであって、
それに合う店を探す。

ただその店にあったものを依頼しなければ
店のノウハウを生かせず時間もお金も無駄に
なってしまいます。
純正屋さんにカスタム車を持ち込んではダメです。
引き受けてくれたところで良い結果は望めないでしょう。
断る方が親切だと思います。

そのお客様に対しての返信メールには
長く、くどくなるので書かなかったのですが、
当社の考えとしては、エンジンの調子が良くなること、
エンジンにとって不自然でないことを優先します。

エンジンはきちんと作業が行われたのであれば、
オーバーホールすることにより当然調子が
とても良くなります。

ポートカーボン落としはもちろん、
デコボコをとったり、
以前書きましたが鍛造ピストンを使い
ライナー打ち換えボーリングをしたり、
シートカットすり合わせをきちんと行い、
燃焼室も仕上げます。
そして必要な消耗品をきちんと交換して、
丁寧に組み付ける。

それら作業で調子が良くなることにより、
吸い込める空気量が変わります。
もちろん増える方向です。

そのエンジンが回転数により
吸い込める空気にあわせ、
適切にガソリンを混合できるキャブレターを
使いたいのです。

そうすればエンジンの燃焼が良くなり、
調子が良くなり、トルクもパワーも出て、
しかも故障が少なく、長持ちします。

つまり純正よりも性能が向上したエンジンに
合うキャブレターを使いたいのです。

人間に例えてみるとどうでしょう。
私のような40代で時々運動する程度の一般の人と、
20代で現役のアスリートは求めるものが
全く違います。

アスリートであれば、食べるものも
普通の人よりたんぱく質の多いものを
食べるでしょう。
競技によりますが量も多いのではないでしょうか。

その時に栄養をとってはいけない、
食べてもいけないと言われて、結果、
良いパフォーマンスが発揮できるでしょうか。

一回だけなら、不摂生でも運良く良い結果が
出ることもあるかもしれませんが、
継続的に良い結果が出るようにするには
適切な栄養、食事が必要でしょう。

つまり良いエンジン(アスリート)に、
適切に混合比を調整でき、充分に量の
取れる口径のあった良いキャブは
必須だと思います。

イマイチのキャブ、調整が自由にできない
あるいは費用対効果の低いものに合わせた
イマイチのエンジンなど作りたくありません。
それはそれが得意なところでしてもらえれば
良いと考えます。

優れたアスリートは少ないですが、
私のような普通のおっさんはたくさんいますから。
私が頑張ってもたいして走れもしない。
故障するだけ。

ちなみにフルオーバーホールした
当社のエンジンに純正キャブを取り付けて
しばらく使ったこともあります。
これがそのキャブの性能なりにしか走らなかった。

つまり走ることは走るのですが、
思うように走らない。加速しない。
反応がぼやける。オーバーホールした意味がない。

その後キャブだけ交換したところ、
今まではなんだったのというぐらい
よく走りました。
やっぱり良い食事、栄養でないとダメなんですね。

もう一つがアクセルの開け閉めに対し
きちんと連携しているか、それが運転者が
体感できるかを大切にしたいのです。

特に負圧キャブレターは好きではない。
バイクとのコミュニケーションがうまく
とれない印象です。反応がワンテンポ遅れる
印象ですし、アクセルの開度に対しての反応が
毎回同じではない印象です。
これは構造が、強制開閉式キャブとは
全く違いますから。

もちろんこれも古いバイクにわざわざ負圧
キャブをつけている人もいますから、
好みの問題です。自由で、
間違いの答えはないのです。

ですが当社としては、エンジンの本来の調子を
味わってもらい、アクセルとのわずかな
開け閉めも反応として楽しんで欲しいのです。
インジェクションのついた新しいバイクや
車では味わえない反応です。

その反応が思うような反応であれば、
運転が楽しく安全につながることは
間違いありません。

FCRキャブレターは開度の小さな時に
反応が鋭くなり過ぎないような構造になっています。
これが調子の良いエンジンでもギクシャクせず
乗れる素晴らしいところです。
しかも一度セッティングすれば
大きくずれることもなし。

見た目が嫌いならどうしようもないですけど、
黒エンジンに使うなら、値段が高くなりますが、
黒いタイプの目立たないボディをおすすめします。

アクセルの反応が毎回同じであれば
ミッションの変速もタイミングよく
正しく行いやすいので、自然と
ミッションの爪の部分も傷みにくくなります。

自分の道は自分で決めれば良いですが、
一部だけをみて本当に行きたい方向を
誤ることは避けたいものです。