予算はそれぞれですが、点だけで考えずに
全体を考えなければ良いバイクにはなりません。
素人さんは点でしか物事が見れず、
限られた予算をどこに使うかを間違います。
100万円の整備費用と300万円の整備費用では
まるで内容が違ってきて当たり前です。
エンジンだけ良くてもまともには走らないですし
車体だけでもダメ。
調子が良くても見た目がボロボロでは
乗っていて気分がよくないでしょう。
その限られた予算の中でできるだけのことを
するのがプロであり、質問があればその理由に
ついて明確に答えられる店を選ぶことが
まともに走る古いバイクを手に入れる
唯一の手段です。
もちろんその分時間はかかります。
ただバイクを前に拝んでいるだけでは何も
状況は変わらず、何か行動しない限りは
状況はかわりません。
今回から数回に分けて
過去に販売したGSX750Eの整備、レストア模様を紹介します。
今回の車両はいつもと違い、一度ノーマルピストンでの
エンジン整備とレストアと車体整備とレストアを
施しての一度目の納品。
その後しばらくしてから状態が良いうちに再入庫し、
エンジンを降ろしての鍛造ピストンを組み込み
そのエンジンに合わせて当社でマフラーを製作して
2度目の納品をしています。
その時の作業模様を数回に分けて紹介していきます。
今回は時系列で紹介していくため
エンジン編と車体編にわかれていません。
長くなる為、一部端折りながらの紹介ですが、
写真が通常より多めに撮っていたようなので
大事な部分は詳しめに紹介しています。
下の写真はベース車両として入庫時の状態です。
いつも言っていますが、納品時の状態に合わせ
それにあうものを使用します。
どんな時もいわゆるボロというものは使いせん。
今回は特殊な車両で簡単に部品入手は出来ないため
可能な限り、車体全体が良いものを使いました。
輸入されたものですがそのまま走れそうなほど
綺麗な状態です。
私が常々言っている程度が良いものというのは
どういう物か知っていただくことにつながればと
思います。
良い状態の分解したものに繰り返し接していれば
素人の方が見てもなんとなく感じる事が
出来るようになると思います。
そうすれば買ってからかえってお金の面でも
高くなってしまい、実際に苦労するボロなんて
わざわざ買う理由がなくなるのです。

まずノーマルピストンを使ったエンジン整備模様から
紹介します。

ヘッドを降ろしてそのままの状態。
このヘッドを仕上げます。
チューニングはしませんが仕上げレベルとしては
上の方になります。
このエンジンのヘッドは詳しく作業写真を
撮っていたので詳しく紹介します。
(手間がかかるので普段はここまで撮っていない)

燃焼室とポートの作業が終わり、
バルブシートカット作業はまだ行っていない
写真になります。
簡単に書いていますがめちゃくちゃ時間と
手間がかかります。体にも悪い感じで
ハッキリ言って大掛かりな整備作業者は
完全な肉体労働者だと思います。

燃焼室の写真になります。



ここまで仕上げるのはかなり大変です。

ピンポケですがEXポート。
チューニング仕様ではありませんが、
形状は整えつつ作業しています。
サービスしすぎですね。




最近は撮るのに時間がかかるので
気筒ごとには撮っていないのですが
今回のGSX750Eは撮っていました。
燃焼室側からのポート写真。EX側。


バルブシートカットすり合わせは
まだ行っていないのにあたり幅が
IN,EX共に全く広がっていないことからも
程度の良さが解ります。
もちろんこれは車種によって程度の良いものでも
違いがあります。


IN側のポート。曲がりも少なく
綺麗なポートですね。




この写真はピンぼけですが燃焼室側からの
IN側ポート写真




続いてEX側のシートカットすり合わせを行います。
EX側の方が材質は硬めです。

バルブシートカットすり合わせ後、
光明丹で当たりの確認をしている写真。
光明丹はバルブに塗ってからバルブシートに
軽くあて、あたりを見るのですが
厚く塗っても薄く塗ってもダメです。
シートカットがきちんとできていたと
感じていても光明丹でのチェックで
上手く当たっていないことが確認できることもあり
(一部しか光明丹の色がついていない)
アナログですがこのチェックはとても重要な
確認になります。
もちろん上手くあたりが出ていない時は
修正します。
過去にエンジン分解された形跡があり
他店で一度シートカットがされたものは
よくまともにあたりが出ていないものがあります。
EX側、IN側全てバルブシートすり合わせ後に
確認します。
これも地味な仕事で結構時間が必要です。

これはIN側です。

全てのバルブのバルブシートすり合わせが
終わりました。
文字を書いているのはその作業が終わるごとに
記入しているからです。
ここまで終わったらこの後に修正面研を
行います。

ねずみ色になっている箇所がバルブの当たり面です。
IN側。

ややピンボケですがEX側。

使用するバルブです。程度良く再使用です。
4バルブエンジンは殆どの場合再使用できます。

EXバルブ

IN側のバルブ

エンジンカバー類をバフ掛けする前に
整備します。
これはクラッチのカバー裏側。
ガスケット取り付け面を面だししてあります。

面だし部分のアップ。面だしは全ての箇所に
する必要はなく、漏れやすそうな箇所のみ
行えば良いです。
GSX系(カタナ含む)はカワサキZ系よりも
クラッチカバーからものによっては
オイル漏れすることもあるので念のため
行っています。

ヘッドカバー裏側新品のように綺麗です。

オイルパンとブローバイカバーも面だししました。
これも面倒な作業の一つです。

右側カバーです。
下の方に傷があるので修正します。

修正前。

修正後。この後バフ掛けします。

続いてエンジン外観のレストアです。
清掃してブラスト後に脱脂、塗装のための
マスキングが終わったところ。
これはクランクケースです。
外観からはカタナのエンジンと同じ。

シリンダーヘッドです。

綺麗にブラスト処理とマスキングされている
ことが解ります。
ブラストはやや丁寧にしすぎなくらいですね。

シリンダーです。


塗装、乾燥処理が終わったところ。
自然な良い感じに仕上がっています。
シルバーでこのように自然に仕上げるのが
なかなか難しいのですが、長年のノウハウが
溜まって出来るようになりました。
シルバーで色を塗り始めた頃は
もっとキラキラ感がありやや明るすぎて
いましたね。

クランクケース

ヘッド。修正面研も終わっています。
これは自社では出来ないので腕の良い
助っ人さんにお願いしています。

シリンダー。

続いて車体部品のレストアです。
この写真はブラスト後のもので
小物類と、リヤインナーフェンダー
リヤフェンダー、チェーンカバーです。

前後ブレーキディスク、スイングアーム、
センタースタンドです。
センタースタンドはマフラーによっては
つけられないですが、念のためレストアしておきます。

フロントフォークアウターチューブ、
スプロケットハブ、メーターギヤ、
フォークトップキャップです

バッテリーケース、サイドスタンド、
エンジンマウント、ウインカーステー、
電装系のプレートです。
サイドスタンドなど曲がっていたりすれば
塗装前に修正しておきます。

シートベース。シートベースはシートスポンジが
水分を含みやすいので結構傷んでいるのが
当たり前、
このシートベースも一番力のかかる部分に
亀裂が入っているのでこの後修理します。
その他シート表皮を固定する爪がとれてしまっていたり
スポット溶接されている部分が取れ気味になって
しまっていたり、それも修正します。

この部分に亀裂が入っています。

この部分には小さな穴が開いています。

この様な感じで爪がとれてしまっています。
これを再生します。
左の方は穴の開いている部分を溶接し
それを削って修正した跡が見えます。

この様に爪を新たに作って溶接して
その後再ブラストしています。
穴の開いていた後も溶接して埋め
スポット溶接部分でとれそうな箇所も
追加で溶接してあるのが解ります。


屋や色が変わっていたりしている箇所が
修正部分で、大量にあることが解ります。

この車両はフルレストア車両ではないのですが
フレームも必要な箇所をブラストして
塗装します。
もちろんこれらの作業は販売価格によって
違いがありますし、こちらのお客様は
2台目の購入ということでややサービス過剰ですかね。
この写真は下塗りが終わったところになります。

カバー類のバフ掛けが終わりました。
これも肉体労働の典型ですね。

エンブレムはまだでました。

エンブレム貼り付け後。ガラッと雰囲気が変わります。

ウインカーの修理をします。


質感がそろわなくなる為
状態の良かったものも含めてレストア。

出来るだけ自然な感じに仕上げることを
こころがけています。

ブラスト、必要な部分の修正が終わった部品の
下塗りが終わりました。

同じくバッテリーケースなど下塗りまで
終わりました。

スイングアームなども同様。

テールランプです。テールランプベースの
シルバー部分がはがれていいたので
レストアします。
マスキングがしにくい箇所の為
テールランプを組みつけた状態で
塗装します。

これはテールランプベースの裏側で
淵の部分を塗装しました。

フロントフォークのトップキャップを
レストア。

ブレーキディスクのレストアが完成。
こういう時はリジットマウントの
ディスクの方がレストアはしやすいですね。

ホイールのベアリングと内部のカラーです。
純正がまだでたので純正を使用しました。

スプロケットハブのベアリングを交換します。
ホイール回りのベアリングは状態が悪くない時、
明らかに交換された後と解る時などは
交換しない時もあります。

スプロケットは前後とも交換します。
最近リヤスプロケットは鉄のものを使うことが
多くなってきました。

先程のベアリングにグリスを入れハブに
圧入しました。
この後シールを取り付けます。

スプロケットとシールを組みつけました。

ハブの裏側スプロケットボルトは
再メッキして使用。

リム部分をバフ掛け後に塗装のためのマスキング後。
通常はブラスト処理することが多いですが
このホイールは程度が良いことと純正の塗装が
薄かったためこの時はブラストせずに上塗り塗装します。
これはリヤホイール。

フロントホイール。

フロントホイールレストア終了後。
綺麗に仕上がっています。
ベアリングは前後とも交換済み。

リヤホイールホイールが綺麗だと
車両が断然引き締まって見えます。

ここでエンジンに飛びます。
今回はピストンを再使用するため
交換するピストンリングを外して
カーボンを落としています。

ピストンとシリンダーのクリアランスを
ボアゲージで測定中。

上中下、縦横、合計一気筒につき
6か所測定します。

純正のピストンリング。


ピストンリング合口のバリ取りをします。

解りにくいですが合口のバリ取り完了。

続いて合口のすき間をシックネスゲージで測定中。

ピストンとリング回りの測定が終わって
リングを組みつけました。

リングまで組み終わってビニール袋に
入れたところです。

ここでフレームの塗装が仕上がりました。
エンジンのスタンドを利用して回転させて
塗装しています。この後乾燥します。

フレームの塗装が終わったので
レストアが終わったサイドスタンドを
取り付けます。
通常はサイドスタンド自体を修正や
加工をしないといけないことがほとんどですが
このスタンドは軽修正のみで大丈夫でした。
スプリングとボルトは再メッキしています。

サイドスタンドをフレームに取り付けました。

ブレーキディスクのボルト。再メッキしてあります。

新品のタイヤと共に組みつけました。
リヤホイール。

スプロケット側

フロントホイール。

ここでスイングアーム外観のレストアが完成。
この後ベアリングを交換します。

こちらのニードルベアリングを圧入します。

古いベアリングはレストア前に抜いてあります。
ニードルベアリングは抜きにくいので
入れるよりも抜く方が手間がかかります。

グリスを入れたベアリング圧入後。

スイングアーム内にこのブッシュを入れます。
状態良し。

スイングアームのベアリング回りの作業が
完成しました。

フレーム側の準備をします。
使用する雌ネジ部分にタップを立てて
ネジ山の掃除をしておきます。

ハンドルを切る時に動くステムベアリングです。

フレーム上側のベアリングレースを圧入。

下側。

ステム回りのレストがが完成しました。
右下の部品はハンドルのクランプです。

フロントフォークアウターチューブのレストアが完成。

シールとガスケットを交換します。

フロントフォークスプリングです。
とても珍しいレートの違うスプリングが2本
入っているタイプです。
ブレーキをさらに効くものにする時は
短い方のスプリングを取り去ってカラーを入れて
調整すればさらに走りを良くできるかもしれません。
今回はブレーキ自体はAPのマスターシリンダーに
するだけなのでそのまま使用します。

フロントフォークが完成。

スピードメーターギヤ。レストア済み。

メーターギヤ裏側。
内部も分解清掃してチェックしグリスアップして
組付け。通常この部品はグリスで汚れまくっています。

スイングアームのシャフト。
再メッキはしていませんが綺麗な状態です。

レストアした足回りなど各部品を組みつけました。
リヤショックは状態が良かったため
清掃して再使用。
車両が完成した後走って確認しましたが
全く問題なし。

エンジンマウント。
エンジンやフレームが綺麗なのにマウント
回りがボロというわけにはいきません。
どの部品もバランスを考え作業します。

これはエンジンマウント回りのボルト。
再メッキしてあります。

これはガソリンタンクの給油口の写真で、
よくあるダメ整備の典型です。
タンク内に錆止めのためでしょうか、
クリーム色のコーティングみたいなものが
されていますが、それがダメになって亀裂が入り
はがれてきています。
今回この車両で一番手間取ったのがこの
ダメコーティング剤をはがすことで
とにかく大変でした。

当社では基本このような塗り物系のコーティングは
しておりません。長い目で考えた時に
かえって問題になることが多いからです。
この写真は、はがしたものの一部ですが
この後、手の届かないタンクの前側や、
隅の方を剥がすのがとにかく大変でした。
ガソリンタンクを再塗装する時などは
出来るだけこのような処理がされているものは
剥がしていますが、予算が低い時、
ガソリンタンクを再塗装しない時は
今回のように亀裂が入っていたり、
はがれていなければやむを得ず
そのままにすることもあります。
当社で適切な処理をしているにもかかわらず
すぐにタンク内に錆が発生する時は、
保管が悪かったり、乗る回数が少なすぎるなど
何か取り扱いに問題があることが多いです。
この時、ガソリンタンクのみが傷んで
いるわけではありません。
他の部分も必ず少しずつ傷んできています。
ガソリンタンク内は通常すぐに錆びてくるものでは
ありません。
それでも内部が錆びてくるということは
バイクから、使い方、保管に問題があるよと
言ってくれていると考えてください。
(入り口部分が少し錆びてくる分には
問題ない)
せっかく大金をかけて仕上げたのに、
自ら壊しているようなものです。
古いバイクにとっては湿気と高温、
そして何より長く乗らないことが痛む
原因です。
錆処理はモノをよく選んで、適切な使用方法
で行わないとかえってガソリンタンクが傷み
後が大変です。
当社で作業する時も大体1日がかり、
簡単なものではありませんので、
その辺の店で何も考えずに
すぐに雑なコーティングと言われる塗り物を
する人がいるわけです。
悪いですがこちらで散々苦労して作業したものを
すぐに対応できるほど暇ではありません。
余計なことをする前によくよく考えて
対処してください。
今回はここまで続きは後日。
コメント