フラットトルクで良いのか。

先日納車に行きました。Z1です。
今回の車両は皆様には写真で
紹介できないのですが、
エンジン、車体ともチューニング仕様です。

美しく、乗っても楽しく、いい音に
仕上がりました。

そのZ1に乗っていて感じたことが
あったので書きたいと思います。

最近、とくに車ではメーカーの都合か、
フラットトルクで・・・
この文が褒め言葉の様に使われ、
それが得意な電気自動車が走るようになってから
なおさら言われるようになりました。

そんな話、私は何言ってんのと、
思ってます。

ただの移動の手段としてはそれはそれでも
良いと言えるでしょう。
見える先は自動運転ですか。
何度もこのようなことは書いていますが、
世の中の方向はそちらに進んでいるようです。

つまらないフラットトルクの乗り物を与えられ、
楽しいでしょ、いいでしょと、
今まではそんなものはつまらないと
言っていたのに、それを180度変えて
メーカーの都合の良い方向に考えを
押し付けられています。

それをただ素晴らしいという評論家は
何なのか。

家族と旅行なら自動の方が楽でその方が
良いのですが、
そうでなく趣味として乗り物に接するのであれば、
私の様にそれだけでは面白くないと
考える人もまだいると思います。

つまり移動の最中の運転を楽しみ、
機械とコミュニケーションをとりつつ
走りたいと考える人です。
ただの移動の道具から、それがより発展し、
より自分の意思で自由に操れる乗り物に
車やバイクが進んできたのです。

それを今さらフラットトルクが最善、
自動運転が一番偉いなどと眠い話です。
それは選択肢の一つであって、
それが一番のはずはありません。

フラットトルク含め自動運転は
ただの移動の手段、
それが発展し自分で思うように動かせるものが
レベルの高いものだと考えます。
そのためにはフラットトルクではダメなのです。
走行抵抗に負けて、自由には加速して
くれません。

自分の思うように操れる乗り物こそが
一番の乗り物だと考えます。

これからそう考える人は少なくなると思いますが、
私はその少ない方に入ります。
つまり移動の手段して使うときと、
趣味で楽しむもの、自身で所有するバイクや車は、
運転し、なおかつ見た目も楽しむことが目的です。
それを動かすために出かける口実を作ったり、
目的地を決めたりします。

そして機械以外に余計な制御物は何もついていない
乗り物として、古いバイクは最高です。
インジェクション車しか知らないのは
本当にもったいないことです。
誰かのプログラムの上で走っているのですから。

そして先ほどのZ1、
当然テストと言えども出来上がってすぐの
慣らし中ですので、
傷めないように注意して走るのですが、
確認のため上まで回します。

納品まで一度も回してない状態だったり、
たいした距離も走らず納めるなんてのは
おかしいと思います。
それでどうやって古いものの品質を
保証するのか。
それじゃ納品後トラブルがでるでしょうね。
今回は250キロ近く走りました。

今回のエンジンはチューニング仕様で
高品質の鍛造ピストンに、
ライナー打ちかえボーリング、
ポートの拡大加工、1mmオーバーサイズの
ビッグバルブ、強化バルブスプリング、
インナーシム化、ST-1のカムです。
今回は点火系も変えてます。

このエンジンですと、駆け上がっていくように
気持ちの良い加速をします。
フラットトルクではないのです。

ですが扱いにくさは全くなく、
まるで純正のエンジンの様につかえます。
というより純正より扱いやすいです。

ここ10年ほどは、今回のお客様の様に
チューニングエンジンを積んだ車両販売は
少なく、ほとんどがオーバーホール仕様の
エンジンです。

もちろんチューニングエンジン
(オーバーホールも含まれる)と、
オーバーホール仕様のエンジンでは
金額も大きく違います。

それはレストアや整備費用もかかる
古いバイクの場合、
費用がチューニング代まで回せないため、
ほとんどの方がオーバーホール仕様が選ぶ
一番の理由ですが、
それ以外にもオーバーホール仕様と
チューニングエンジンとの違いについて
実際に体験したことがなく、
その金額分のメリットがあるか、
注文される方自身がそういうものを欲しているかが
解らないからでしょう。

純正キャブと社外品のキャブ、
純正ホイールと、鍛造マグネシウムホイールなど、
見た目以外にその違いを知らない、
解らない方がとても多いのです。
口では伝えにくく、借りものでは遠慮するので
(当然だ)解りにくく、ご自身の
バイクでいつもの道を走り体験して
いただくしかないからです。

その中で、一度チューニングエンジン仕様を
購入された経験のある方は、次に車両を
購入される時も
(車種にもよるので全てではないのですが)
100%に限りなく近くチューニング仕様を
選びます。

これが意味するものは、
この加速と音がやみつきになるものだから
でしょう。私も今回のZ1に乗って
やっぱりこれが一番面白いと思いました。

一定の速度で走っている状態から
さらに加速する時に、いろんな抵抗を
ぶちぬいて自由になれる加速があるからです。

オーバーホール仕様で充分に走ります。
ではなにがチューニング仕様と違うのか。

Z系は9000回転からがレッドゾーン
ですが、オーバーホール仕様ですと
(以下OH仕様と書きます)
6000回転を越えてからは
だいたい体感ではフラットなトルク特性です。

それでもエンジン回転は上がっていくので、
時間あたりの仕事量があがり、
馬力があがるので加速していきます。

つまり加速はしているのです。
ですがしびれるような加速ではない。
一定の加速をするのです。
これは自由になれる加速ではありません。

少し話はそれますが、
中には経験の中でOH仕様のエンジンでも
伸びがあると感じた方もおられると思いますが、
その場合、エンジンの下の力が落ちていたり、
マフラーの特性などで下の方のトルクが
薄くなっていたり、トルクの谷があったりして
上の方が元気があるように感じているだけで、
実際に良い走りをしているわけではないのです。

エンジンのスペックはボアとストローク、
燃焼室形状、ポートの径や、バルブの径、
カムの数値など、機械的なもので
どのような出力特性になるかおおむね
決まっているからで、
そこ変化させないかぎりZ1~Z1000MK2
などは、フラットに近い特性にしかなりえない
からです。
(ただし書いているように吸排気がダメだと
著しく性能が落ちる)

小排気量のエンジンでは力がないのをカバー
するために低いギヤ比の設定になっていますが、
実際に走れば、自分では速いつもりでも
回りに余裕で追いつかれたり、抜かれたり
しますよね。思うほどには走っていないのです。

Z系は排気量が大きいのでそんなことは
ないですが。

話を戻します。

ではチューニング仕様ではどうなのか。
つまり6000回転を越え、フラットトルクでなく
トルクが増しているのです。
そうなるようにエンジンに手を加えてあるのです。
6000回転以上ある程度の回転までトルクがあがり、
それに回転も上がっていくので、馬力もあがる。
それにより駆け上がっていくような加速を
するのです。

チューニング仕様のZ1にテストで乗り、
この駆け上がっていく加速と音に、
自由に存分に走ってみたいとの考えが
頭に浮かびます。
ですがそれはオーナーさんにしか
その権利がなく、製作した私達でも
それは許されません。

最近では「フラットトルクが正しい」
と寝ぼけたことがまかり通っています。
こういうことを昔からチューニングエンジンに
かかわってきた人でさえ言ったりする。
お金でももらっているのか?と思わずには
いられない話です。もらってるんだろうけど。
そういう人の話は信用しません。

エンジンを回す。ノイズが増し、
回りの景色が変わり、うける風も強くなる。
アクセルをここぞという時に開けたた時、
駆け上がる加速とその音を愉しみたければ
OH仕様でなく、チューニング仕様で。
という話でした。

ただし、

ご自身が購入となった場合には、
どのように普段使っているか、
走っているかを考え、駆け上がっていく加速が
必要かどうか判断した方がよいです。

要はスポーツカーの様な使い方なのか、
たまには飛ばすのか、
のんびり景色を見ながらただのんびり
走りたいのか。
人に迷惑をかけないのであれば
どうこう言われることではありません。

普段ほとんど6000回転以上を使わない人には
チューニングエンジンは全く意味のないものです。
だったらその予算をエンジン以外の
別のところに使った方が良い。

でも普段は使えずとも、
空いた道で時々でもその加速感を
味わえたければやはり本体に手を加えるしか
ありません。
そういう特別な物を所有していると気持ちだけでも
仕事が頑張れるということもあるのでは
ないでしょうか。

自分の好みにできる、
自分だけのバイクに仕上げる、
これも古いバイクを所有する醍醐味です。

実はチューニングエンジン仕様は、
手間が大幅に増えるので、製作側としては
費用と合わないので、あまり受けたくない
仕事なのですけれど。
まじめにやると時間と作業が
合わないのです。

ただし作るにしても車両と部品が
手に入るうちだけですが。
いつでも手に入ると思ってはいけません。

話は変わります。

つい先日、お問い合わせがあり、
フルレストア車が納期半年ぐらいで
できるのかなと思っていた方がいたそうです。
当社増井が対応いたしました。

これは、いま一切仕事がない状態で、
すぐに取りかかることができる状態でなければ
できないと思います。

でも現実として考えて見れば
半年で出来上がるなんてことはないでしょう。

今は一切仕事がない、
レストアに絡む仕事をしていて
オープンして一発目なら解りますが、
そんな暇な店、危ないです。
手作業が多く、時間がかかる工程が多い業種で、
暇はあり得ないことだからです。
することは常に山ほどある。

途中まで作業などを進めていいれば
できそうですが、
実はそれも簡単ではありません。
理由は後で書きます。

私はその方とは話さなかったのですが、
こういう方が実は一番騙されやすい。
なおかつ予算が200~300万円ぐらい
の方。お気をつけください。

お話させていただいた印象もとても
良かったそうなのでなおさらです。
有名店こそ気をつけて。

なぜならこういう方は納期を
品質を同列に考え、重視してしまうから。

フルレストア車はそれではダメなのです。

品質の次に納期です。
古い物をレストア、整備する仕事は、
効率良く進められる作業がないので、
必ず時間がかかります。

手を抜けば、作業が早くなります。

そんなものを買ってしまっては、
楽しみのために買ったのに
苦悩の日々が続くことになります。
何で俺のはこうなんだろうか、と。

ましてやフルレストア車を購入する経験を
生きているうちに何度もする人が
どれだけいるのでしょう。
おそらく一生に1台だけという方が
ほとんどではないでしょうか。

正しい経験がないから何がどれぐらいで
という基準がないので、
フルレストア車がすぐに手に入るという
現実があらわれ時にテンションが上がってしまい、
品質に疑いを持たないまま契約してしまうのです。
(フルレストアの品質の基準が解らず、しかも
納期半年は早すぎます)

少し前のフェラーリを持たれていた方が、
自分のフェラーリが本当に良いのかどうか
解らないと言われていたのを聞いたことがあります。
そりゃそうだ、簡単に乗せてとは
言えないですから。

まずフルレストアは部分整備車両に比べ
ものすごく作業量が多いので、
とにかく作業にかなり時間がかかります。

そのレストアの実作業だけを行うことが
できるのであればまだしも、
それ以外のこともたくさんこなさなくては
いけません。

解りやすい物をいくつかあげれば、

今まで売ったバイクの整備をしたり、
新たにお問い合わせいただいた方で
質問があれば調べたり、
注文をいただいた物の部品の手配、
欠品になったものの代替え品探し、
各見積り、
必要な部品の製作、
完成後の走行テスト、
実作業だけでも仕事量が半端ないのに
いま少し書いた以外にも
言い出せばキリがないほど
たくさんすることがあります。

つまり当社の様な古いバイク相手の
仕事ですと、
普通のバイク屋さんの様な業務プラス、
レストアやチューニングの仕事を
しています。
さらに仕上がり品質が上がれば上がるほど
こだわるほど仕事量が増えます。

当社もいつもいっぱいいっぱいです。
だから電話受付時間も午後からと
短くなる(笑)

全てではないですが、
手作業の部分が多いので、
機械で解決というわけにもいきませんし、
品質を考えれば外注できるものも
とても少なくなります。
人を入れても重要な部分は簡単に任せられる
ようにはなりません。

他業種、同業者、人が増えて、
会社が大きくなって品質が下がったのを
何度も見てきました。
そしていいころを知っていたまじめな
社員は苦悩する。

需要がある程度解っているものには
あらかじめ作っておくという手はあるのですが、
日常業務プラスの作業になります。

それが誰にでもできるのなら
話は簡単ですが、時間がなく、
結局品質を保とうとすると
任せられる人が育つには時間がかかり、
それでもできる部分は限られてくるため
結局できる人間に仕事が集中しその人の
できる仕事量以上は作業が進みません。

つまりベース車両を用意しても
作業にかかれない。

つまり普段の仕事以外にプラスで
在庫車両を作っていくのは簡単ではなく、
できても少しずつしか進みません。

だから古いバイクをたいした作業もせずに
右から左に売るのなら在庫を並べ、
売ることはできるでしょうが、
きちんとしたフルレストア車、整備車両でもいい、
を並べて売るなんてせいぜい1台くらいでは
ないかと思います。
売れればすぐに在庫はなくなる。

つまりあらかじめ作っておくというのも
かなり難しいことなのです。
だから当社ではすぐに乗れる状態での
在庫車両はほとんど持てない。

古いバイクを、もしたくさん売ったり、
売り上げや利益を中心に考え、
納期を早くしようとすれば、

レストアなど手を加える、
あるいは整備する部分を減らす、
品質を大幅にさげる。

人を増やし、できない人間にも
作業をどんどんさせて作業を進ませ、
ダメな物を売る

古いバイク相手の場合は
元の状態にバラつきが大きいため
それについて人間が考え、行動して
チェックして、と人の能力に頼る部分が
とても大きいのです。

これが新品の物を取り扱う業種と
全く違います。

つまりフルレストア車が買いたい。
でも納期は短くなんてのは夢物語です。

もしたまたま店がコツコツ仕上げた物が
出来上がってそれに偶然出会った。

それは運が良かった。
でもその場合でも頭は冷静に。
そのレストア車はどのような作業が
実際に行われたのか
口だけでなく証拠が必要です。
できるだけ多く。

どこまでばらして、
どのような作業をしたのか、
エンジンなら各クリアランスなど数値の
記録はあるか、とにかく証明する物が
あるのか。
口だけフルレストア車は世の中に
たくさんあります。
金額だけでなく、内容を見ましょう。
しかもそれが正しく行われているか。

今回Z1を納品したお客様は
どこで購入するか店選びをしていた時に、
近所の店で売られていた完成したレストア後の
バイクを買いませんでした。

日頃から技術系の仕事をされているようで
作業内容と金額が合わないとお考えに
なられたようです。

その上でそのバイク屋さんより金額で言えば高い、
近所でもない当社を選び、さらに納車までの
製作期間も待っていただくことになるのですが
契約していただきました。

デジタルカメラや、スマホが普及してから、
とくにここ5年ぐらいは
記録を残すことが容易になったため、
まともなレストア車なら、
逆を言えば自分の店のまともなところを
証明するために写真を撮り、
お客さんには作業を見せたがる位がまともです。

良いものなら、どのような作業をしているか、
店側は見せたいものなのです。
(ここまでしてますと自慢したいのです)

それなのに最近作られた商品車で
その様な物が一切ないのなら、
それは疑ってよいのです。

今であればとにかく写真と記録です。
動画はこういう場合には不向きです。
見えない部品、エンジンなどは特に
どのような部品が使われているかどこまで
作業しているか確認すべきです。

カワサキZ系などのフルレストアを
行えば写真1000枚~2000枚は
普通だと思います。
10枚~20枚でも全くないよりは
マシなくらいです。必ず証拠確認です。
見せてもらいましょう。

どうか、つまらない買い物をされないように。

コメント

  1. 高尾 より:

    記事下部の一枚目の写真が今回のZ1でしょうか。
    カラーリングがきれいですね。こういう雰囲気、私は好きです。
     このようなバイクをすべての人が所有することは難しいかと思いますが、見て、触れて
    その素晴らしさを知ってほしいと思います。

    • 田﨑 隆一 より:

      いつもコメントありがとうございます。
      フェイスブックの方はちょくちょく見ているのですが、
      ブログの方は時々しか見ていないもので。
      この写真のバイクは昔当社のデモカーだったもので、
      販売したZ1ではありません。
      今回製作したZ1の方がはるかに仕上がりが良いと思います。
      このようなバイクに慣れている増井もその仕上がりにテスト中に緊張するみたいなことを言っておりました。

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